Beerhouse³ 営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋やってます

アメリカにおけるクラフトビールの定義

 どうも。新潟県三条市の中心部(まんなか)にある由緒正しき飲食店街「本寺小路」(ほんじこうじ)でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse3」を、とりあえず何とか開業いたしました店主いけのです。

 

 前回、クラフトビールとは何かという疑問を書いてから1か月近く空いてしまいましたが、その続き。

 

beerhousecubed.hatenablog.com

 

 この記事で引用した諸先輩方の記事でも紹介されていますが、クラフトビールの定義として、しばしば言及されるのがアメリカの醸造者協会、ブルワーズ・アソシエイション(BA=Brewers Association)の掲げる定義です。

 

  • Small(小規模)
  • Independent(独立)
  • Traditional(伝統的)

 

www.brewersassociation.org

 

 正確には、クラフトビールの定義ではなく、「Craft Brewer」=クラフト醸造者の定義ですが。

 

 小規模、と言うのは、いまやクラフトビールの成長著しく、それなりの生産量まで許容しており*1、実際は、名指しで批判していないだけで、バドワイザー、ミラー、クアーズとその他、みたいな意味のようです。

 独立、と言うのは、それらの大手企業(やビール以外の飲料系大手)と資本関係もない(薄い)こと。

 伝統的、と言うのは、副原料や添加物の使用により、工業的な量産化、高効率化、低コスト化をしない、と言う意味のようです。これについては、むしろ今までビール原料と考えられていなかった食品の使用等、革新的な製法に挑戦することの方が、クラフトではないか、という意見もあり、実際この定義でも「traditional or innovative brewing ingredients」(伝統的または革新的な醸造原料)と表記されています。

 

 アメリカでは禁酒法時代*2に、一部のローカル醸造所を例外として、多くの醸造所が閉鎖してしまい、生き残ったのは、多角経営に成功していた大手でした。その大手ビール醸造所は、しばしば広告やマーケティングの事例として紹介されるほど、圧倒的な広告費と緻密な販売網によって市場を独占していきました。

 これらの大手企業(や、その系列の販売網)とどう対峙していくか、というのが、アメリカにおけるクラフト醸造所の一番の課題なのだろう、と思います。

 

 個人的には、クラフト的であるかどうかに、規模はあまり関係ないと思います。

 もちろん組織が大きくなれば、製造現場と経営、企画、販売、それぞれの意思疎通が取れなくなり、いわゆる大企業病がはびこりがちです。

 

 それでも、たとえば、いけのは別にファンでも崇拝者でもなく、製品を何1つ所有していませんが、世界のアップル社などは、パソコンやスマフォといった最先端の電子機器メーカーながら、創造的で感性に訴える商品群により、結構、多くのみなさんがクラフト的な、少なくともクラフト系の商品と親和性が高いというイメージをお持ちなのではないでしょうか。

 現在、全世界の社員数10万人超、資本金や売上高、利益までいずれも日本円で「兆」の単位の巨大企業ですけれども。

アップル インコーポレイテッド - Wikipedia

 

 そのイメージはどこから来るかと言えば、スティーヴ・ジョブズの死後時間を経ていく今後はともかく、ジョブズの生前からその後しばらくは、彼の強力な個性とリーダーシップによって、大企業的、官僚的な空気を排除できていたから、とか思うのです。

 たとえば、日本では、井深・盛田時代のソニー、本田・藤沢時代のホンダなどが、そういう企業だったのではないでしょうか。

 

 一方、いけのの前職である市役所などは、臨時職員なども含めて職員数1,000人程度、事務系の正規職員だけならば数百人規模(それでも地方では極めて大組織ですが)であっても、トップが明確な方針を打ち出せず、職員一人一人が失敗を恐れて上司の顔色だけを窺い、人間の意志ではなく、書類と会議によって事業の決定を行っている結果、人の生活からかけ離れた事業を臆面もなくやり遂げる組織になっているのではないかと思うのです。

 ※もっとも、地方都市において、市役所が時代の変化に最も敏感で問題意識の強い組織であるべきなのか、最も保守的で一番後ろからついてくる組織であるべきか、という議論はあると思います

 

 そういった点で、アメリカのBAが掲げるクラフトビールの定義のうち、最も重要なことは、2番目の独立事業者であること、だと思う次第です。

 もちろん、世の中には、「金は出すけど、口は出さない」とか、「経営に口は出すけど、商品に口は出さない」という出資者もいるとは思うのですが、やはり、往々にして資本的な従属関係にあると、本当に経営者本人のやりたいことがやりとげられるのか、という疑問は残るところです。

 

 それではまた。 

*1:上限600万バレル=約7億リットルで、日本の酒税法改正前のビール醸造免許付与条件の2百万リットルよりはるかに多い

*2:ちなみにアメリカで連邦禁酒法が成立したのはアメリカがドイツと敵対した第1次大戦中で、当時の主要醸造所、バドワイザーアンハイザー・ブッシュ)、ミラー、クアーズ等はいずれもドイツ系企業であり、その排除も目的だったのだとか。結局、大手は生き残ったのですが