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Beerhouse3営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋はじめました

モレッティ「年収は『住むところ』で決まる」を読む vol.3

 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse3」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 ちょいちょい本を読んで、その内容を興味ある方と共有できていければ、という企画の1冊目、エンリコ・モレッティ「年収は『住むところ』で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学」、原題は「The New Geography of Jobs」の、第3回です。

 前回から間隔が空いてしまいましたが、実は、逆に途中で結構、まとまった時間を確保できた日があって、4、5、6章とマトメて読んでしまったら、それを書き起こす時間が取れず…。

 結局、時間が経って内容が薄れてきたこともあり、欲張らずに書き込むところまでを読み切ろう、ということで改めて4章だけ読み直す結果に…。

 

 4章は、この本の根幹ともなるイノベーション産業の集積がどのようにして発生するかを追います。

 

 若い人たちには実感が沸かないかもしれませんが、今から20年前、1990年代の終わり、インターネットが世の中に普及し始めたころ、「デジタルデバイド」という言葉がもてはやされていました。

 それまでの先進国と後進国、都市と地方を分ける地理的な格差はインターネットによって消失し、インターネットに接続できるかどうか、PCを使いこなせるかどうかがより大きな差となる、という主張。

 

 でも、実際には2017年の日本では東京一極集中がより進み、日本の中ですら地理的な格差が拡大し、地方創生が取りざたされています。

 

 モレッティの「年収は『住むところ』で決まる」の第4章、「『引き寄せ』のパワー」では現代の経済を牽引するイノベーション産業は、どうしてここまで地理的な集中が発生しやすいかを論じます。

 

 まず、従来の産業では、資源と消費地との距離のバランスが産業の集積を引き起こしていました。
 農業であれば適切な土壌や気候によって、林業や漁業などの1次産業も自然条件によって、その土地で集積可能な産業が決まります。製造業の場合は、鉱物などの天然資源が決め手となり、薪炭、石炭、石油といったエネルギーも重要です。

 三条市の場合、鉄・刃物の産地となった背景には、そもそも鉄分が多い土地(融雪用の地下水に含まれる鉄分で道路が赤く染まる)であることに加え、降雨量の多い下田地域という山間部を抱えて、樹木の育成速度が速いことで薪炭の確保ができたことも条件として重要だったらしいです。

 

 産業集積のもう1つの条件は、消費地との距離、物流面。当然、都市に近い方が物流コストが低く、有利です。また、近世までは河川や港湾の近くも物流拠点として栄えました*1

 三条も、信濃川の良好な川湊として発展した背景があります。

 余談ですが、1570年代、上杉謙信末期の越後で、代々三条城主を務めた重臣・山吉氏が改易された後、城主に収まったのは神余親綱(かなまり・ちかつな)。この人物は、歴史上の存在感としては、京都で経済活動に従事したことで知られます。戦国最強の経済力を誇った上杉氏の主要輸出品である青苧(あおそ、麻織物の原料)の販売を担っていたらしい*2。青苧の主要産地は魚沼・頚城などの丘陵地帯であり、三条は別に産地という訳でもなかったようです。それを三条城に配置する、ということは、やはり、この時代の三条は商業上の拠点だった、と推測したいところですが、いかがでしょう。いや、まったくの憶測ですが。

 

 モレッティに話を戻しましょう。では、シリコンバレーにIT産業が集積しているのは、なぜなのか。シリコンバレーは別にシリコンの産出地ではない。

 前回、前々回と見てきたように、イノベーション産業の資源で最も重要なのは、人です。また、消費地への輸送コストは、製品の場合、船舶、飛行機、鉄道、自動車の発達で低価格化が進み、ソフトウェア産業に至っては通信費だけで全世界に送り届けられる。

 冒頭で掲げたデジタルデバイドの概念からいけば、一見、イノベーション産業の集積する条件に地理的な拘束は少なく、むしろ安く人を確保できる発展途上国に本拠地を移しても何の問題もなさそうです。

 それでも、ますます特定の都市だけに集積が進み、そうでない地域は取り残されている。

 

 モレッティはアメリカ最大の小売業、ウォルマート(本社はアーカンソーの低コストな田舎町にある)がインターネット部門の開設にあたり、シリコンバレーにほど近いサンフランシスコ郊外を選んだことを挙げて述べます。

 

 イノベーションの世界では、人件費やオフィス賃料以上に、生産性と創造性が重要な意味をもつからだ。ウォルマートは、サンフランシスコに拠点を置くことにより、3つの恩恵に浴せると考えた。その恩恵とは、厚みのある労働市場(高度な技能をもった働き手が大勢いる)、多くの専門サービス業者の存在、そしてなにより知識の伝播である。
(p.164)

 

 

 3つの恩恵について、モレッティは詳しく述べます。

 まず、労働市場の厚さについて。

 

 いまあなたが独身で、交際相手を探しているとしよう。地元のバーで相手を見つけようとしたが思うようにいかず、あなたはオンライン上の交際相手探しサイトを利用しようと考える。…一方は、男性100人と女性100人が登録している。もう一方は、男性10人と女性10人が登録している。あなたは、どちらのサイトを選ぶだろう?
(p.168)

 

 

 労働市場においても規模が大きければ、つまり、多くの労働者がいるほど企業は、より理想に近い労働者を選びやすいし、より多くの企業があるほど労働者は理想に近い企業を選びやすい。そして、規模が大きいほど、仕事内容は専門分化しやすく、より深い仕事に従事できる。

 だから、仕事を求める人はその産業が集積している街に引っ越した方が有利だし、人材を求める企業も優秀な人が集まっている街に移転した方が有利だ。

 これは、アメリカの、特に若い知識階級のように引っ越しに抵抗が少ない人が多いから起きる現象なのでしょうか。日本人はアメリカ人ほど引っ越しを好まないのでしょうか。それでは、なぜ東京に一極集中が起き、地方創生が叫ばれているのでしょう。

 もちろん、仕事だけで人は住む場所を選ばないかもしれません。だけれども、魅力的な仕事が集積することで、魅力的な人を集められる可能性については、頭に入れておいてもよさそうです。

 三条に人を集めるとしたら、どういう人たち、どういう職業が集まりやすいのか。あるいは今、三条にいる人たちのポテンシャルを最大限に発揮できる産業とは何なのか。

 

 集積の恩恵の2番目は、専門サービス業者の存在です。
 ハイテク企業と専門サービス業者の関係も、企業と労働者との関係に近い。

 ハイテク産業が集積していれば、ハイテク企業向けの「広告、法務、技術コンサルティング、経営コンサルティング、配送、修理、エンジニアリング関連の支援といった専門サービスを提供する業者」も集積しやすい。

 逆に、それらの専門サービス業者が集積していれば、「サービスを利用できるおかげで、ハイテク企業は副次的な業務に煩わされることなく、本当に自分たちが得意なこと、すなわちイノベーションに集中できる」。

 たとえば、三条でも、刃物等の製造業と卸売業の集積は相互に恩恵を与えあってきたし、それだけでなく、鉄鋼等の材料販売、燃料・研磨材等の副資材、加工機械、木柄・プラスチック等の周辺部品、鍛造・研磨・塗装等の一部工程の外注、パッケージ・カタログ等の印刷といった周辺産業も発達しています。

 

 また、モレッティはハイテク産業の場合に、重要な専門サービス業としてベンチャーキャピタルを挙げます。スタートアップにとっては多くの出資者から自分たちの理想に近い企業を選べるし、出資者の側も地理的な距離が近い方が、より細かに投資判断をでき、投資後の経営アドバイスもできる。

 

 第3の恩恵は、知識の伝播です。

 これは、21世紀の都市を考える上で、最も重要な要素かもしれません。

 

 本当に優れたアイデアは、たいてい予想もしていないときに思いつく。

 電話や電子メールは情報を伝達するのに適しており、研究の格となるアイデアを見いだせたあとに研究プロジェクトを進めるうえではきわめて有効な手段だが、新しい創造的なアイデアを生み出す手段としては最適ではないのだ。新しいアイデアは、議題のない自由な会話から、思いがけずミステリアスに生まれてくる。
(p.187)

 

 

 電子メール、携帯電話、インターネットの普及により、創造のプロセスにおいて、物理的に近い場所にいることの意味が小さくなったと考える人は多いが、実際には正反対の現象が起きている。

(p.189)

 

 ここのところは、実は主張が少し弱いとは思います。

 同じ社内の人間であれば、同じオフィスにいた方が顔を合わせる機会は多いだろうし、そのときに意見の交換が行われるだろうとは想像できるのですが、同業他社とのアイディア交換に近接性は重要なのでしょうか。

 

 おそらく、私的な会話や接触を通じてアイデアや情報を交換しているのだろう。アイデアの交換は、仕事の場だけでなく、地元のカフェや社交イベントなど、肩の凝らない場でもおこなわれる
(p.186)

 

 というだけでは弱い気がします。

 でも、世界的に展開する企業であっても、確かに同じ街で活動していたほうが、色々な場面で噂を耳にしたり、共通の知り合いがいたりして、より密接に刺激を与えあう、ということはあるかもしれません。

 

 モレッティは、さらに、シアトルの例でも触れた、優れた企業の社員が独立した際にも、同じ街を選びがちな結果、企業にとっては損失でも、その地域全体ではさらに集積が強まる、というエピソードを改めて紹介しています。

 

 イノベーション産業が特定の都市に集積してきたメカニズムを第4章では見ました。それでは、この発展は今後も継続していくのでしょうか。今、産業が集積していない都市にも発展の可能性はあるのでしょうか。あるいは、今、集積していない都市の住民たちは、どのように行動すべきなのでしょう。

 モレッティは疑問を投げかけて、第5章に入ります。

 

年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学

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*1:近代ヨーロッパでは産業革命の中で水車をはじめとする動力源としての河川の重要度も上がったのですが、日本の産業革命は石炭・石油が主力となった後でした

*2:なお、その後、青苧生産は上杉氏と共に会津、米沢に伝わり、江戸時代には越後の青苧はすたれてしまった