Beerhouse³ 営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋やってます

モレッティ「年収は『住むところ』で決まる」を読む vol.5

 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse3」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 エンリコ・モレッティ「年収は『住むところ』で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学」、原題は「The New Geography of Jobs」を4月に読み始めて、前回までに1か月近く空いたのに、今回も前回からさらに1か月空いてしまいました。

 やる気があれば、最後に全体の総括をするかもしれませんが、本文に当たる回としては最終回の第6章、7章です。

 

 細切れにして、その都度、マトメを挙げていく、という方針が奏功して、一応、全体の流れを把握できている、というのは良かったのですが、さすがに時間を掛け過ぎでした。*1

 他にも読みたい本、一度読んであるけど皆さんに内容をお伝えすべき本などあるので、ちょいちょいヒマを見つけて取り組みたいところ。

 

 さて、本書は、第1章から第4章までは、現代アメリカの成長都市の成功要因をそうでない都市と比較しながら観察し、第5章では停滞する都市の問題点を観察しましたが、第6章では、停滞する都市が成長都市にキャッチアップできるのかを見ます。

 

 これまでに成長している都市の要因を見てきたように、地理的条件は現代ではほとんど重要ではない。現代社会で最も価値があるものは、アイディアであり、最も貴重な資源は、アイディアを生み出す人の存在で、人間は自由に住む場所を選ぶことができる。

 つまり、現代社会の都市の成長に重要なことは、どうやって優秀な人間を集めることができるのか、と言い換えることができる。

 特に優秀な人たちは一度集まり始めると、そこにどんどん集まってくるので、最初のきっかけをどのように作れるのか。


 大学のような高等教育機関の存在が重要かと言うと、高学歴の人間ほど移住に対する抵抗が低いため、必ずしも優れた大学あっても卒業と同時に移住してしまえば、産業の発展には影響がない。

 日本では、地方創生の議論に伴い、東京都内の大学を地方に移転せよ、という声がありますが、地方に大学を作っても、そこに産業が育たなければ、大学卒業と同時に、東京へ出て行ってしまう。

 大学があれば都市が成長できるのならば、京都は今後、観光以外で食っていけるのか、という。おそらく、京セラや村田製作所ロームといった企業の成長には、学園都市の存在が貢献したのでしょうが、現代でもそれらに続く新興企業が若者をつなぎとめているのか。


 モレッティは、大学よりも重要な要素として、「スター研究者」の存在を指摘します。

 最新の科学的情報を得ようと思えば、最先端の学術研究がおこなわれている場のそばに身を置く必要がある

 

 スター研究者自身が有力新興企業の立ち上げに関与するケースがしばしばある

(p.239)

 

 

 さらにモレッティは、スターの重要性はハイテク産業に限ったことではない、と言います。

 いまや「ハリウッド」が映画産業そのもののことを指すまでになっていますが、映画黎明期にはハリウッドは単なるロサンゼルスの地名にすぎず、ニューヨークの方が重要性は高かった。

 そこに、D.W.グリフィスという1人のスター監督の移住と成功が、その後のハリウッドを決定づけた。

 

 ところで、著名な都市経済学者、リチャード・フロリダは、現代社会の都市の魅力として、クリエイティヴィティを挙げますが、モレッティは因果関係と相関を混同すべきではない、と指摘します。

 街の魅力、アートや文化と都市の成長は、因果関係が逆ではないか。街が経済的に発展することで、文化が花開くのではないか、と。

 また、ベルリンのように首都機能があることで、公的セクターが全国の富を集めることができ、その投資の下に芸術が発展している都市はあるが、そこに産業集積は見られない、とも言います。

 文化的な魅力は、ないよりはあった方がよいのだろうし、経済的に成長すればやがて文化的な発展も期待できるが、それほど強い関係性はないのではないか。

 

 モレッティが重視するのは、大学そのものの存在よりも、 

 地域経済を発展させるうえで大学が最も効果を発揮するのは、専門性の高い労働力と専門サービス業者とともに、イノベーション活動のエコシステム(生態系)を形成している場合だ

 (p.260)

 

 と指摘します。

 

 では、このようなエコシステムは意図的に作り出せるのか。

 モレッティは、それができるとすれば、地方政府による市場への介入が必要だと指摘しつつも、 

 この種の政策を成功させるうえで難しいのは、政策担当者は有望な企業を見極めて投資することだ。

 (p.266)

 

 どの産業が勝者になるかを前もって予測することは、政策決定者にとって容易ではない(p.272)

 

とその難しさを挙げます。

 実際、現代アメリカのイノベーション都市の多くは、地方政府の計画的なものではなく、偶然、先進企業が拠点を置いたことで始まっている、と言います。

 

 地方政府は、その土地の強みと専門性を活用することを考えなくてはならない。その際、雇用創出のために税金を投入するのは、市場の失敗が放置しがたく、しかも、自律的な産業集積地を築ける可能性が十分に判断できる場合に限るべきだ

 (p.282)

 

 モレッティは単に大学を設置するだけでなく、それを成長産業とどう結びつけるかが重要だと指摘している一方で、大学全入時代の現代日本で、研究機関として大学を設置するどころか、単なる教育機関として市立大学設置を試みる自治体があると聞いて戦慄しているのですが、ぜひ、そこの市役所の皆さんは、本書のこの辺りを熟読していただきたい、と願うところです。

 上の方で書いたとおり、大学を卒業して十分優秀な人材が育成できたとして、その人たちは職業選択の幅が広がるだけで、十分魅力的な産業がなければ、大学卒業後に街を出ていくのです。

 大事なことは、産業の成長を後押しする研究機関としての大学だと思うのですが、いかがでしょう。 

 学生や保護者のための大学ではなく、産業界のため、地域経済発展のエンジンとしての大学、という視点について共通理解があった上で、それではどういう分野に投資をするのか、というより難しい議論があるのだと思いますが。

 

 なお、モレッティは6章の後半で、投資分野の決定の難しさに対して、数少ない成功例として、「エンパワーメントゾーン・プログラム」を挙げています。

 これは産業分野を特定せず、貧困地域での雇用創出に貢献するあらゆる産業に優遇措置を講じることで、社会の安定化に貢献した、とのこと。

 とは言え、この政策は、貧困地域の転落をとどめることはできても、成長にどの程度貢献したのか、焼け石に水ではないのか、といった疑問もあるところですが。

 

 第7章は、都市というよりも、国際競争の中でのアメリカの位置づけや、教育投資・研究投資の重要性に言及しており、地方都市政策としては、あまり参考になる部分は少ないかと思われますので、割愛します。

 優秀で職業選択の幅が広い皆さんは、今後、自分が住む地域をどのような視点で考えるべきか、あるいは子育て中の皆さんは子供をどのような教育環境を用意すべきか、一読の価値はあると思いますが。

 

 最後に繰り返しになりますが、全体のマトメは気が向けば書くかもしれませんが、本書のマトメはいったん、これで終了です。

 他にも読みたい本、以前に読んで皆さんと共有しておきたい本がいくつかりますので、今後も順次、それらを取り上げてまいりたい。

 

  興味をもった皆さんは、是非、ご自分でも本書を直接、あたって理解を深めていただきたい。下記リンクから買っていただくと、当店にちょこっとだけアフィリエイトが入ります。ありがとうございます。

年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学

 

 

 

 

*1:この本自体は、2014年の出版直後、前職在籍中に一度読んでいるので、内容をある程度、理解している、という点もありますが