Beerhouse3営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋はじめました

金属加工神としての弥彦神社を考える

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鹿のイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

 

 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse3」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 ブログに書こうと思って調べものを始めると、調べれば調べるほど掘り下げてしまってウカツなことを書きづらくなり、結果、そのまま放置していたネタを、とりあえず雑に放り投げてみる*1

 

 ビールとは全然関係ない郷土史の話。

 なんか、トリップアドバイザーのフォトジェニックな観光スポット1位に弥彦神社が選ばれた、とかで。

tg.tripadvisor.jp

 

 というタイミングで、金属加工集積地としての燕三条地域の歴史を考える上で、弥彦神社の存在ってのは一応、考えておいた方がいいと思うんですよね、という話。

 

 という訳で、今回はとりあえず、当たり障りのない範囲で。

 

 

1 弥彦神社の祭神「天香山命

  弥彦神社で祀られている神様は、そりゃ「弥彦」さんだろう、と思うんですよね。「〇〇ヒコ」って古事記日本書紀(以下、記紀)にもよく出る人(神)の名前だし。

 ところが、日本全体の神話である「記紀」には、新潟の地方神である「弥彦」って名前自体は、出てこない。

 

 弥彦神社の公式見解では、弥彦さんと言うのは、記紀に出てくる名前で言うと、「天香山命」(あめのかぐやまのみこと)の別名だ、ってことになっております。

 

越後一宮 彌彦神社

 

 天香山命記紀には出てこないんですけどね*2

 

 天香山命が出てくる主要史料は、「先代旧事本紀」。

 で、「先代旧事本紀」の「天孫本紀」によれば、天香山命とは、記紀に出てくる名前で言うと、高倉下命(たかくらじのみこと)の別名だ、としています*3

国立国会図書館デジタルコレクション - 先代旧事本紀 10巻. [3]

 

2 タカクラジの伝説

 タカクラジ*4は、神武東征のエピソードに出てくる人物です。

 

 古事記では、神武天皇ことカムヤマトイワレビコが九州から瀬戸内海を通って、近畿上陸を目指しますが、一度目は失敗に終わり、迂回して紀伊国熊野から上陸を果たします。

 このとき一頭の熊が現れたかと思うと、イワレビコたちは気を失ってしまいます。そこに一振りの刀を持ってタカクラジが現れると、イワレビコたちは再び正気を取り戻し、タカクラジに事情を聴きます。

 タカクラジが答えて言うには、「自分の夢にアマテラスとタカミムスビが現れて、下界が騒がしいので、かつて国を平定したタケミカヅチに行って来いと言った。タケミカヅチは自分が行かずとも、以前に国を平定した刀を送れば大丈夫だ、タカクラジにこの刀を授けるので、タカクラジは天孫イワレビコ)に献上しろ、と言う。夢から覚めてみると本当に刀があったので、お持ちした次第です」と。

 この刀の名前は、サシフツ、あるいはミカフツ、あるいはフツノミタマと言って、現在(古事記編纂の時期には)、石上神宮*5に祀られている。

 

国立国会図書館デジタルコレクション - 古事記. 中,下

 

 日本書紀でも、ほぼ同じエピソードを伝えています。

 

国立国会図書館デジタルコレクション - 日本書紀 30巻. [3]

 

 タカクラジは、このエピソードに関する限り、タケミカヅチとも密接に絡む、刀剣に関する神様、と言ってよさそうです。

 

3 軍神 タケミカヅチ

 タカクラジの夢に現れて刀を託したタケミカヅチは日本神話上のヒロイックな神様の一人(1柱)なので、ご存知の方も多いと思います。

 

 イザナギイザナミの国産み神話の中で最後に生まれた火の神、カグツチイザナミを焼き殺してしまったため、怒ったイザナギカグツチを切り殺したときに、刀からしたたる血の中から生まれた8柱の神の1柱です。

 

  その後、出雲の国譲りにあたっては、アマテラスにより派遣され、オオクニヌシと交渉し、逃げ出したオオクニヌシの息子、タケミナカタ諏訪神社の祭神)を打ち破ります。タカクラジに渡した刀というのは、このときに使ったものですね。

 

 という訳で、タケミカヅチは、刀剣の神であり、戦の神であると考えられています。特に、鹿島神宮に祀られ、ここが東北平定の拠点となったことで、より軍神としての性格を強めたようです*6

 

4 金属加工神と鹿

  神武天皇の東征に協力した熊野の神様がなんで弥彦にいるのか。

 弥彦神社の社伝では、神武東征完了後、越後まで遠征したのだ、と言っていますが、もちろん、弥彦神社の社伝以外に、そう主張する史料はなさそうです。

 

 これは1500年に及ぶ歴史の中で様々な思惑が絡んだ結果だと思われ、今回は深追いしません。 

 ただ、もしも元々関係ない弥彦の神様に後から天香山命を関連付けたのだとしても、八百万の神様から天香山命を選んだのは、刀剣神としての天香山命に何らか意味があるのではないか、と思うところ。

 

 大事なポイントの1つは、弥彦に「鹿」がいることです。

 

 伊夜比古 神の麓に今日らもか 鹿の伏すらむ皮衣きて 角つきながら

万葉集3884)

 

 刀剣神と鹿が何故、結びつくのか。

 

 アマテラスが天岩戸にこもったとき、神々が外に出そうと、さまざまな努力をします。この中で、古事記では金属加工に関する神としては、

 

 …天の安の河の河上の天の堅石を取り、天の金山の鐵(まがね)を取りて、鍛人(かぬち)天津麻羅(あまつまら)を求(ま)ぎて、伊斯許理度売(いしこりどめ)命に科(おほ)せて鏡を作らしめ…

 

と鉄で鏡を作らせるだけなのですが*7日本書紀では、「一書曰」として別伝を紹介しており、そこに

 

 以石凝姥爲冶工、採天香山之金、以作日矛。又、全剥眞名鹿之皮、以作天羽韛。

 

として、イシコリドメ(石凝姥)が作ったのは「日矛」(という名の鏡)で、そのときに鹿の皮をはいで「アメノハブキ」という「鞴(ふいご)」を作った、としています。

 

 金属加工に鹿皮を使っていた。

 もちろん、鹿皮や角、骨はこの他にも、さまざまな武具を作るのに重要な素材だったと思われますが*8

 

 また、出雲の国譲りに際して、タケミカヅチを派遣する際、アマテラスが使者としてタケミカヅチに遣わしたのは、「天迦久神(あめのかくのかみ)」で、これは鹿児(かこ)で、鹿の神様だと言われています。

 もっとも、何を根拠に鹿だと言ってるかは特に発見できず。

 「天香久山」や「カグツチ迦具土)」をはじめ、他のところで「かく」という神名・地名が出たときの解釈は、大概「かがやく」か「かぐわしい」の意味で、光か香りだと主張して、鹿が出てくるのはここくらいなんですよねぇ…。

 つまり、タケミカヅチに関連する神様だから鹿を挙げているだけ、な気もしないでもないんですが…。

 

 とは言え、タケミカヅチに鹿が紐づけられているのは間違いないところ。

 

 というのも、まず、日本で一番有名な鹿がいる神域と言えば、奈良の春日大社です。

 これは元々、藤原氏の神社ですが、藤原氏の祖神、アマノコヤネよりも上位にタケミカヅチを祀っています。元々、藤原氏の祖先、中臣氏が常陸に根拠地を持っていて、鹿島神宮の主神であるタケミカヅチを崇めていたので、藤原氏が奈良に持ってきたようですが、一応、春日神社で鹿を祀る理由として、伝説としては、タケミカヅチが鹿島から鹿に乗って奈良までやってきたとか何とか。

世界遺産 春日大社 公式ホームページ/ご案内/ご由緒ご案内/ご由緒

 

 弥彦を身近に育った身としては、神の使いとしての鹿って、ごく一般的な動物なのかと思っていたんですが、そうでもないんでしょうかね? Wikipediaでは、代表的なところでは、やはり、春日大社鹿島神宮ってことになるようですが。

神使 - Wikipedia

 

 なお、弥彦神社と金属加工の関連と言えば、刃渡り2mを超す「志田の大太刀」もある訳ですが、この辺は、単純に当時の武家が武運を祈るのに、越後国内で最も権勢のあった神社だから、って可能性もあるので何とも。

大太刀 - Wikipedia

 

5 まとめ

 という訳で、鹿に関連付けられそうな弥彦の神様には金属加工神としての一面がありそうだ、というお話でした。

 

 もちろん弥彦に神様が来た時代からずっと金属神だったのか、どこか途中の時代で金属神の性格を背負ったのか、という問題はあります。

 また、単純に、山の神様とか何か別の理由で、天香山命と紐づけてみたところ、その神様が偶然、刀剣神の側面を持っていた、という可能性もあります。

 

 さらには、弥彦が金属神だったとして、その時代の信濃川流域との関係はどうだったのか、という問題もあります。

 少なくとも奈良時代には、蒲原郡には既に弥彦の他、現在の飯田、保内、井栗あたりには畿内の朝廷に認識される規模の集落と神社はあったようなので。

 

 と課題山積ですが、深く掘り下げずにざっくり書いて4,000字超! 気が向いたらまた調べて書くかもしれませんが、取り急ぎ今回はこの辺で!

*1:この話題をきちんと書く上で何が難しいかって言うと、(1)考古学、古代史に興味がある人、(2)歴史に詳しくはないけど、氏子など弥彦神社を崇敬している人、(3)歴史にも弥彦にも詳しくない普通の人、のドコを狙って書くかで、書くべき内容が全然違う。たぶん、2番目の人とかでも古事記とか日本書紀を一度でも読んだことある人とか、そうそういないと思うんですよね。とは言え、そういう信仰心を無碍に扱うのも気が引けるところで。一方、1番目や2番目の大家から比べたら、自分も所詮は素人で、この書き方で間違いないか、とまた調べもののドツボにハマる、という…

*2:10/4追記:何のエピソードもなく名前だけですが一応、日本書紀に一か所、天香山命の名前が出てくるようです。神代下、天孫降臨のところで、「一書曰」の別伝の形で、ニニギの兄アマノホアカリの子として唯一挙げられ「是尾張連等遠祖也」とある。尾張連…パス…

*3:高倉下とは独立した、先代旧事本紀で語られるニギハヤヒの子としての天香山命の伝承も詳しく見る必要あるんでしょうが今回はパス…

*4:記紀の神名は漢字表記が複数あるので以下、カナで統一。高倉下は記紀ともに高倉下ですが

*5:石上神宮物部氏ゆかりの神社で、物部氏ヤマト王権で軍事を担当し、ニギハヤヒの子、天香久山の兄弟を先祖に持つ一族で、この辺も深く見る必要あると思いますが…

*6:鹿島神宮の祭神が何故タケミカヅチなのか、というのも本来は調べる必要がありそうで…

*7:鉄の鏡ってあんまり聞きませんけど

*8:この古代の道具づくりにおける鹿の役割ってな点も調べる必要が…