Beerhouse3営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋はじめました

ビールは苦くて好きじゃないんですが、という話

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無料の写真: ホップの収穫, ホップのつる, 散形花序, ホップ, 収穫, 摘む - Pixabayの無料画像 - 1596086

 

 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse3」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 三条市内では、まだまだクラフトビールが浸透していないこともあって、ビール専門店と聞くと、(大手の)ビールが嫌いな人はあんまりお出でいただけず、(大手の)ビール大好き、って方が多数です。

 

 たまにビール好きの人に連れられて、ビールが苦手な人がお越しになると、だいたい、言われるのが表題の、

 

 「ビールは苦い」

 

って話です。

 

 クラフトビールを仕事にするようになって、(大手の)ビールが好きじゃないって方にも色々お会いしましたが、圧倒的に多い理由は、苦みのようです。

 あとは、炭酸、匂い、とにかくおいしくない、など*1

 

 分かります。

 

 いけのも元々(大手の)ビールは全然、好きじゃないところからクラフトビールにハマった人なので。

 

 今日の要点は、3点。

 ・苦みがおいしくないのは正常

 ・苦みは経験で理解できるようになる

 ・その経験を積むための苦くないクラフトビールも結構多い

です。

 

 では、順番に。

 

苦みがおいしくないのは正常

 人間が知覚できる味覚は5つ。甘味、旨味、塩味、酸味、そして苦味*2で、これらは人間が生きていく上で必要な栄養分や、不要な成分を区別できるように進化してきたようです。

 甘味は糖、つまりエネルギーですし、旨味はアミノ酸、つまり体を形成するタンパク質です。塩味は塩、つまり体内のイオンを調整するミネラルでしょうかね。

 一方、酸味は一般には腐敗した食品の味、と言われています。ただ、たとえば果物などでは逆に、熟す前に酸味を持つものが多く、しかも、それをスッキリとした味として好む部分もあります。

 

 そして、苦み。これは基本的には植物が外敵から身を守るために作り出す「毒」の味です。

 なので、基本的には不快に感じて当たり前なのです。

 

苦みは経験で理解できるようになる

 ただ、すべての苦みに毒性がある訳ではありません。

 また、コーヒーやカカオ、お茶、オレンジピール、ニガウリなど苦味を持つ一部の植物は昔から世界各地で好まれてきました。特に、飲み物では苦みのあるものが比較的、好まれてきたようです。

 ビールの場合は、ホップという草が苦みの元となっています。冒頭の写真の草ですね。

 

 これは植物の側の進化の過程なのか、人間の側の進化の過程なのか分かりませんが、毒に似た分子構造で人間は苦みを感じるけれど、毒ではないものも多数、存在するようです。

 そして、この毒の味と、そうでない苦みとの違いを人間は「学習」によって、手に入れるらしいです。

 だから、子供は苦い食べ物を好きではない。

 

 たとえば魚の内臓であったり、一部の草、あるいはブラックコーヒーのような、大人が好んで食べることが子供の頃には理解できなかった苦い食べ物を、気が付けば、自分も好んで食べるようになっていた、という経験をお持ちの方も多いと思います。

 それらは、どうやら成長に伴って自然に身に着けた味覚ではなく、苦い食べ物を少しずつ色々と食べていくことによって慣れていくものらしいのです。

 

 ビールの苦みも同じです。 

 

その経験を積むための苦くないクラフトビールも結構多い

 今、 クラフトビールの中で流行のIPAは大手のビールよりも苦いものが中心的で、ビールが苦くてダメ、という人にオススメするのは、ちょっと抵抗があります*3

 

 でも、クラフトビールの魅力は味の多様性。意外と苦くないビールも結構、あるんです。

 …あ、うちの店で常に在庫できてるか、って言うと、あったりなかったりで申し訳ないんですが…。

 

 苦みを感じない方法は、大きく2つ。(1)苦み成分がそもそも少ない、(2)他の味で苦みをマスクする、です。

 

(1)苦み成分がそもそも少ないビール

 ビールの苦みはホップに由来しますが、ホップの品種、投入タイミング、そしてもちろん投入量によって、どのくらいの苦み成分がビールに溶け込むかが変わってきます。

 

 ジャンルで言えば、ヴァイツェン*4やベルジャン・ウィートエール*5など、それほどホップのキャラクターが前に出ないビールは、苦みがほとんどありません。

 ベルジャン・ウィートエールは、そもそもホップが普及する以前の古い時代の名残を伝えるビールで、コリアンダーオレンジピールで風味づけをしているので。

 

 この他、フルーツ系のビールもホップが少ない/使ってないものも多いです。フルーツ系のビール、フルーツって言うだけで敬遠する男性客も多くて売れ残りがちなので、中々、うちの店で仕入れにくいのですが。

 

 また、ホップがガツンと効いて華やかな香りが強いビールであっても、アメリカのペールエールの一部、場合によっては一部のIPAでも、ホップの使いどころを香りづけに重点を置いて、あまり苦くないものも結構、あります*6

 

(2)他の味で苦みをマスクするビール

 ブラックコーヒーに砂糖を入れると、コーヒーの中の苦み成分が減っていないにも関わらず、苦みを感じなくなるように、甘味には苦味を抑える効果があります。

 

 具体的には、モルト感の強いW-IPA、カラメル感のある赤いビール、そして焦がした麦芽や大麦を使うポーターやスタウトなどは、苦味成分*7だけで言えば、IPAよりも遥かに苦味が強いものも多数あるのですが、甘さが苦味を和らげてくれます。

 

 この他、塩味も苦みを和らげる効果があるようです。しょっぱいビールってのは、あんまりないので、これは食べ物とのペアリングが良さそうです。

 さらに、上でも少し触れたように、人間の味覚というのは、単なる舌の感覚だけでなく、嗅覚や記憶などとも結びついているため、好奇心を持ち、先入観をなくして楽しんでいただければ、と思います。

 

 

 で、こうやって色々と飲んでいると、クラフトビールを飲み始めた頃は、IPAは確かに香りはキレイだけど苦くてなー、なんて、思っていたのに、今、同じビールを飲んでも、苦さは確かに感じるのだけれど、気にならない、ってことは、本当にあるんですよね。少なくとも自分の場合は。

 

 その一方で、はっきりと苦みを感じるビールの中にも、「苦いけど、エグくはなくて、おいしく飲めるビール」、つまり「キレイな苦みのあるビール」と、「苦いし、エグくて、飲みづらいビール」って違いもあるような気がします。

 この辺は、これもモルトの甘さや香りなんかとのバランスなのか、あるいはホップの品種や醸造過程における苦味成分の抽出の違いなのか分かりません。日本国内にいると、少量の実験でも自家醸造が認められていないので、どういう違いなのか、体系的に検討することが難しいですし。

 

 

 と言ったところで、このページを読んでいる皆さんは、それなりに(大手の)ビールにご興味をお持ちの皆さんと思いますが、是非、お近くに(大手の)ビールが苦くてダメ、と言う方がいらっしゃれば、オススメしていただければ、と思います。

 

 とは言え、「自分はビールなんかおいしくないと思っているんだ」、「絶対にビールのおいしさなんか認めないんだ」みたいな態度で、とにかくクラフトビールの中にわずかに存在するビールっぽさを探して「ほーら、ビールっぽい、おいしくない、ダメ」みたいな感想を持って帰られたお客さんも過去何人かお見掛けしてるので、まあ、本当に最後はその人次第ですが…。

 

 なお、この記事の執筆に当たっては、以下の2冊を参考にしております*8。どちらも料理全般の本で、普通に面白いです。高いし、デカかくて置き場所に困るけど。

 

マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-

マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-

 

 

Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books)

Cooking for Geeks 第2版 ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books)

 

 

*1:人間の味覚というのは、舌だけでなく、五感、それに加えて、記憶や感情の影響も受けるので、いわゆる、昭和なおじさんたちの飲み会にいい思い出がなく、そこで提供される代表的、象徴的な飲み物がビールだから、ビールは好きじゃない、とか

*2:辛さ、炭酸の発泡感、ミントの冷涼さ、渋みなどは味と言うより物理的刺激、つまり触覚に近いと言われています

*3:ビールが苦くてダメと言う人にIPAを飲ませたら、苦いけど香りがキレイでおいしい、と言ったところを目撃したこともありますが、少数派と思われ…

*4:南ドイツ式の小麦のビール。ドイツ語で小麦の意味

*5:ベルギー式の小麦のビール。現地語ではオランダ系でヴィット、フランス系でブランシェ

*6:と言うか、ウチで仕入れてるビールは基本的に、そこまで苦い、草みたいなヤツは多くありません

*7:IBU=International Bitterness Unit、国際苦味単位という指数で計算されます

*8:Cooking for Geeks、店にあるのは旧版ですが