Beerhouse³ 営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋やってます

飲み放題をやるべきか問題

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 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse3」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 現在、2階席の準備を進めている中で、飲み放題をやるか迷っている…というと語弊があって、基本的には、やるためには相当、準備が必要なので当面、やる予定はないですよ、という言い訳を書きます。

 

 なお、2階席の準備は2018年6月12日現在、ほぼ終わっておりまして、とりあえずは、お任せコース5,000円(税込)試験営業中は4,500円(税込)のみで提供予定です。

 申し込みがあればいつでも提供可能な状態なんですが、一般向けにお知らせする内容をマトメている最中です。その作業の中で、飲み放題を当面やらない理由を一応、書いておこうと思った次第。

 

 飲み放題をやらない理由…と言うよりは、その逆の、できれば飲み放題をやったほうがいい理由は、主に、使っていただく皆さん側の事情と、経営サイドの事情があると思います。

 

 具体的には、使う側の理由として、もちろん、(1)できるだけ安くたくさん飲みたい、というのと、(2)会計が明朗、ということがあり、一方、経営サイドの理由としては、空席率を減らして固定費率を下げられるなら原価率を上げてもよい、ということがあるかと思います。

 

 じゃあ、うちの店でやるべきか、やれるか。

 

 

利用する側から見た飲み放題をやるべき理由

(1)できるだけ安くたくさん飲みたい

 まず、できるだけ安くたくさん飲みたい、という感情について。

 この点について言うと、飲み放題が出来なくはないですが、価格設定が高くなって、あんまりお得感は出ない、と思います。どこの店の、どういうサービスと比較するか、という話なんですが。

 

 もちろん、同じ内容のもので、より安く楽しめるなら、そりゃ安い方がうれしいに決まっています。

 ただ、クラフトビールという飲物の今の立ち位置として、ワインやウィスキーに比べれば手軽な飲み物ではあるものの、工業的に大量生産されたビールや発泡酒、発泡性リキュールとは、そもそも立っている土俵が違います。

 味はどうでもいいから(酔えればいいから)、とにかく安くたくさん飲みたい、という人には、他のお店に行っていただく(あるいはスーパーや量販店で買って自宅で飲んでいただく)方が、お互いに幸せなのだろう、と思います。

 つまり、先ほどの「同じ内容のもので」という前提で言ったとき、クラフトビールは他のお店では飲めるものとは違うものだ、と考えていただけるかどうか。

 

 この内容の違いを認めていただいて、どうせ飲むならおいしいビールをじっくり味わって飲みたい、それでも、なるべく安くたくさん飲みたい、という人向けには、飲み放題を検討する余地はあると思います。他のお店の飲み放題よりは割高だけど、クラフトビールだったらこの値段で妥当だね、というご理解を得られるのであれば。

 でも、現状、三条市内でのクラフトビールの認知度、市場の熟成度合いを考えると、混乱を招きそうで、時期尚早、という感じがするのです。

 

(2)金額一律だと会計が分かりやすい

 次に、会計が分かりやすい、と言う点。

 この点については、当面、飲み放題ではありませんが、5,000円(税込)試験営業中は4,500円(税込)コースのみ、ということでお願いしたいと思います。

 

 会計の面倒くささは、自分も前職でさんざん飲み会の幹事をやってきたので分かります。

 仲間うちや会社の同僚等、しょっちゅう顔を合わせる人間で飲むなら、まだ、会計がややこしくても、とりあえず払っておいて後日精算、ということもあるでしょう。

 一方、友人の友人だとか取引先など、その日、初めて会って、次にいつ会うかも分からないような人と飲むような場合、誰が何杯飲んだかとか、誰が経済的に余裕があるかとか勘案するのも面倒だし、後日精算するのも手間だし、できれば会のお知らせをする前に、会費いくらでと案内したいところですよね。

 そういう時に、飲み放題で一律いくら、と決まっているのはありがたい。これは分かります。

 

 なので、その点を踏まえて、当面は、こちらでお出しするビールの種類と杯数を指定させていただき、一律5,000円(税込)試験営業中は4,500円(税込)でやらせていただく予定です。

 飲み足りない場合のサイズアップや、追加オーダー分についても分かりやすい価格設定でできればと考えていますが、その点は当面、ご迷惑をおかけするかもしれません。

 

(3)その他

 また値段を気にせずに飲みたい、という要望の変形バージョンで、女性など小食の方、お酒が弱い方で、そんなに多く飲めないので、せっかく出てきた物を残すのが忍びない、という場合もあるかと思うのですが、その辺りはサイズダウンなどにも対応していく予定です。

 そこでお酒以外の代わりのものをお出ししたり、価格を調整する等の対応は、これも当面は、ご容赦いただき、状況を見て検討していきたいと思います。

 

 以上が使う側から見た「飲み放題あった方がいいのにな」という要望への現時点での当店の考え方です。

 この他に、こういう理由で飲み放題が欲しい、というご要望があれば検討しますので、ご意見をお寄せください。

 

店側から見た飲み放題をやるべき理由

 以下は、飲食店経営に興味のある方のみ、お読みください。

 個人的には、経営の裏側の数字は今の時代、隠すものでもないとも思うんですが、客としてはあんまり知りたくないよ、という方も多いと思うので。

 

 経営的には、客数が増えれば増えるほど、固定費の比率を下げられるので、原材料費を高くしても(1人あたりの粗利を削っても)吸収できる、ということです。

 ただ、現状では以下の考え方で価格設定をするに当たって適正なデータを持っていないため、損益分岐点をどのあたりに設定するか、充分な検討が必要です。

 

 以下、詳しく見ていきます。

 資本主義社会では物の値段は、需要と供給のバランス、つまりお金を出していただく皆さんの満足度と、提供するこちらの収益構造のバランスとで成り立っています。

 

 飲食店の場合、皆さんに支払っていただく代金は、次のように分解されます:

 

 代金 = 変動費(原材料費 + 人件費) + 固定費

 

 固定費の主なものは、家賃、内装や設備などの償却(開店資金の返済)、広告宣伝費、通信費。あと、お客さんがいようがいまいが冷蔵庫や照明、空調などの稼働時間は変わらないので、水道光熱費も実質、ほぼ固定費です。

 これらは、どこにどんな店を出すかを決めた時点で、皆さんに使っていただこうが、使われなかろうが発生する、まさに固定された経費です。

 

 飲食店の固定費でやっかいなのは、物件選びの段階で店舗面積から客席数がほぼ決まってしまい、その客席数以上には客数を伸ばせない、という課題があります*1

 

 つまり、たとえば席数20席で平均客単価5,000円の店が2つあるとします。仮に1日あたりの固定費がどちらも1万5000円。

 A店には毎日10人の来店があり、B店には20人。売上はA店が5万円、B店が10万円。

 A店はスタッフ2人、倍の来店があるB店は倍の4人で回すとして、スタッフ一人当たりの平均人件費が1万円として*2、人件費はA店が2万円、B店が4万円。

 残った費用を材料費に使える訳ですが、

 A店: 売上5万円 - 固定費1.5万円 - 人件費2万円 = 1.5万円 

 B店: 売上10万円 - 固定費1.5万円 - 人件費4万円 = 4.5万円

 

 来店者数で割れば、利用者1人あたりの材料費ではA店は1,500円。B店は2,250円を使えます。

 

 とりあえず頭の体操として、ざっくりした計算でやっていますが、同じ席数、同じ固定費が掛かる店で、席に空席があるのなら、材料費の比率を高めてでも、来店者数を獲得した方がよい、ということは見えてきます。

 これが飲食店の経営サイドから見た、飲み放題の基本的な考え方だろうと思います。

 

 ここまで「利益」を考えていませんが、21世紀の商売では、利益はキャッシュフローの上では一時的に発生するにしても、普通は次のサイクルへの投資に使われるものだと思いますし、より効率的には、その利益も見越した先行投資をすべきと思います。

 つまり、利益が出るなら、ここまで見てきた、原材料の品質を上げる、スタッフの給与や研修に投資する、空間をよりよい設備に改善する、といった投資に利用すべきですし、飲み放題は材料原価率を上げる、つまり実は材料費への先行投資により競争力を上げる施策、と見ることもできる訳です。

 

 また、上の式では人件費も変動費の側に入れていますが、個人的には飲食店では人件費も固定費に近いと考えています。

 当店のような個人経営の店では切り下げる人員がいないので変動の余地がありませんし*3、アルバイトを多く抱えるタイプの店でも、若年人口が減っていく中で優秀な人材を確保しようと思えば、なるべく土日平日の混雑率を平坦化して、シフトを組みやすくしていく、ということも必要でしょう。

 長期的には来店者数に見合った人員計画が可能としても、少なくとも短期的には、来店者数が急に増えたから急に人を用意するとか、急に暇になったので急に給料を払わない、といった調整もできません。

 

 この点を踏まえると、ますます、どうせ店を開けていて、席に余裕があるなら、割安にして(原材料費率を高めて)でも、客数を入れ、席を埋め、売上を伸ばした方が、固定費の負担を和らげられる、ということです。

 

 ところが、当店としては、当面、2階席を開けることで、1週間あたりどの程度の利用が見込めるか、といったことが全く見えていません。

 正確には、このくらいは来ていただけるかな、という期待値は持っていますが、現状で想定する利用者数から適正な費用負担を考えると、最初のところで書いたように、利用者目線では他の店に比べてあまりお得感が出ないと見ています。当店の事情としては損益分岐点の設定が危険すぎて、慎重にならざるを得ません。

 

 逆に言えば、もし、皆さんに予想以上にご利用いただいて、スタッフを雇用し、適正な人件費を支払うことができて、なお余裕があれば、今後、割安なコースの設定も可能になるのでは、と思っています。

 

 と言う訳で、当面は杯数指定の5,000円4,500円(税込)コースのみの提供となりますが、よろしくお願いいたします。

*1:テイクアウトの利用、隙間時間の利用による回転率の上昇、立ち飲みによる面積の有効活用等の手法もありますが

*2:ブラックな設定ですが計算しやすい仮の話で…

*3:売上の悪いときは我慢すればいいという意味では変動可能ですが