Beerhouse³ 営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋やってます

猪瀬直樹「昭和16年夏の敗戦」を読む

 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse³」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 どうせなら8月15日あたりに上げようと読み始めたものの、タイミングを逃してここまで…。いや、一応、本書の主題である総力戦研究所が内閣に研究成果を報告したのが、昭和16年(1941)の8月27日ということで…*1

 

 第1次世界大戦を受けて戦争が単なる武力衝突から、工業力、金融や外交も含めた国家の総力戦になる、との背景から対米開戦の1年前に設置され、当時30代のエリート官僚や陸海軍人を集めて対米開戦した場合の経過を研究した総力戦研究所。対米開戦4か月前に彼らが数字を積み上げて出した答えは、日本必敗。

 

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

 

 

 2019年の現代で読むには中々評価が難しい本だけど、前述の、開戦前に数字を積み上げて日本が負けると分かっていたのに、開戦した、という事実に衝撃を受けた人なら、読んでも面白いかもしれない。

 

 本書は元々、戦後30年が過ぎた(とは言え、まだ昭和の)1982年後半に雑誌で連載され、1983年に単行本が出版されたもので、猪瀬直樹もまだ30代の気鋭の新進作家。

 1980年代の日本での対米開戦の評価がどうだったのか不明だけれども、当時は、戦い方がまずかったから負けたのであって、やり直せば勝てる見込みがある、と思っていた人もいるのかもしれない。

 ただ、それからさらに30年以上経った現代では、まさに第2次世界大戦は総力戦だったのであって、国力に劣る日本がアメリカを敵に回した時点で、あとはどう負けるかの戦いだった、というのは、ある程度、歴史に興味を持っている人ならば、共通認識だろう、と思われる。

 そして、ここまで理詰めであるかはともかく、本書にも登場するように、当時からそういう認識の軍人が陸海軍には多数いたし、官僚や民間人でもいた。

 

 となると、現代日本人の興味は、なぜ負けると分かっている戦争を止められずに開戦に至ったか、になるのだけれど、その点については、たとえば下記の本あたりに比べると、踏み込みが甘い。

 

日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)

日本はなぜ開戦に踏み切ったか―「両論併記」と「非決定」 (新潮選書)

 

 

 もちろん、本書でも、陸軍の強硬派から一転、まさかの大命が下って動揺する東条英機を描いたり、「組織の論理」で動いた結果、大局の判断に失敗する日本人が描かれてはいる。

 あとがきや文庫版に追加された勝間和代氏との対談を読むと、猪瀬氏の興味もそこにあるけれども、商業出版の特性上、読者の耳目を引くためにエリート官僚による総力戦研究所、という切り口を選んで、まずは、これだけ明確に負けると分かっていた、ということを読者に提示したかったようでもある。

 

 次の興味は、それならば、官僚機構にそういう問題意識を持った猪瀬直樹氏は、小泉内閣での構造改革、その後の石原都政、そして自らの都政にどう取り組み、それをどう評価するのか、何が出来て、何が出来なかったのか、という論評を是非、本人の視点で読んでみたい。

 もう既に書いてたりするのなら、そのうち読むかも。

*1:細かいことを言うと日本だと玉音放送の8月15日が終戦イメージだけどポツダム宣言の受諾は14日だし、降伏文書調印は9月2日なのでな…