Beerhouse3営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋はじめました

おまゆう案件


 どうも。
新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse³」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。 

 

 三条市の主要産業となっている金属加工の起源について、大谷清兵衛説は根拠に乏しい、という話のつづきで、ちょっと脱線気味の小話。

 

beerhousecubed.hatenablog.com

 

 前回、江戸幕府側の資料で大谷清兵衛の事績が確認困難なことから、出雲崎側の史料を当たろう…と思ったのですが、よくよく考えたら、三条市側の史料も改めて細かい部分をちゃんと洗った方がいいだろうな、と思った次第。

 

 で、大谷清兵衛説の発端…かは、ともかく、広く人口に膾炙するようになったキッカケは、ほぼほぼ特定されていて、昭和39(1964)年に三条新聞で連載された当時の図書館長、渡辺行一氏による「三条ものがたり」です。

 未確認ですが、おそらく、これを書籍化して、より広く流布したのが、昭和41(1966)年の「三条の歴史」。

 

 図書館に行ったら新聞連載の切り抜きをまとめたバージョンがあった! 偉い!

 

 で、本題の「おまゆう」、「お前が言うな!」話。

 

 鍛冶の起源に触れる中で、俗説として三条左衛門説を紹介しているくだり。

 三条左衛門起源説とは、三条の地名の由来として、江戸時代から親しまれている伝説の武士、三条左衛門に鍛冶の起源も併せて求めるものです。

 前九年の役で阿部貞任が敗死した後、残党の黒鳥兵衛が越後に乱入して荒らしまわった、というのは広く蒲原郡に流布した伝説ですが、これと三条左衛門伝説が合体して、鍛冶の起源説が錬成、という。

 

ja.wikipedia.org

 

beerhousecubed.hatenablog.com

 

 こちらが当該連載回。日付を切らずに保存してほしかったところ…。連載の後半に当たる鍛冶の起源に関するエピソードは、執筆ではなく、口述筆記のようです。


f:id:bh3master:20191110083242j:image

 

 少し字が見づらいですが、三条左衛門説を紹介した後の結論部分を拡大。


f:id:bh3master:20191110085340j:image

f:id:bh3master:20191110085346j:image

 

 以下、書き起こし。

 

…(略)…この話を三、四人から聞いているもんだから、一応伝説として項目へ「三条の金物の起り」として入れておいた。入れて置いたけれどもこれはね、昭和に入ってからできたもんですよ。おそらく誰か頭のよい人がね、頭の良い年寄りが、誰かかはわからんが三条左衛門に結びつけた。だからそれを本にまで私が取り上げたということになると、伝説として、本当いうとまだ伝説にはなっていないんだけれども、昔話程度のものでしかないのだけれども、こういう馬鹿げたことを本気にされると困る。そうなると後世を誤らせることになる。簡単に三条の金物ができたと思われるでしょう。

 

 繰り返しますが、この人が根拠のない、鍛冶の起源としての大谷清兵衛奨励説を流布した人です。

 

 あんたが言うなよ!

 この主張をあんたにそっくりそのまま返してやるよ!

 

 一応、弁護しておくと、この後、肝心の大谷清兵衛を紹介するくだりでは、燕や一ノ木戸、田島といった三条周辺村落の鍛冶の起源として大谷清兵衛と和釘を紹介しており、三条、裏館、荒町といった旧城下町は事情が違うだろう、という話をされております。


f:id:bh3master:20191110091254j:image

 

 どこで三条の起源まで釘だと混同されたのか…。

 

 ついでに、大谷清兵衛が和釘を奨励した、という話は、「今燕の上杉家で所蔵している書きあげ文書の中に書いてあるけれども、たった二、三行しかない」とのことで、一応、証拠らしきものはあるようです。

 個人的には、この部分ですら全然、信用してないけど。


f:id:bh3master:20191110091302j:image


 今回、関連部分だけを拾い読みしており、細部は熟読していませんが、全体に、交通も通信も不便な時代の中、戦前のインテリといった感じの博覧強記と硬軟取り混ぜた渡辺氏の筆致には敬意を表するものであります。

 ただ、この鍛冶の起こりの部分は、記者への語りおろしで論理性が一貫しない部分や論拠が薄弱な部分が否めません。

 また、全体に、渡辺氏が立った時代性から逃れられない面もあり、歴史研究がより進んだ現代では全国共通の誤謬とされる解釈もあって、我々は、過去の固定概念を外して、さらに精緻に論を積む必要があると思う次第であります。