Beerhouse³ 営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋やってます

フランス・ヨハンソン「アイデアは交差点から生まれる」

 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse3」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 相変わらず本を読むのが遅いので、やっと読み終わりました。いや、読んでる正味の時間としては1日でも読み終わるくらいの時間なのですが、途中、ブレイク期間が長く、読み始めてから2か月くらい掛かりました。

 

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 後で引用できるかもと思った箇所につける付箋の色がバラバラなのも、意味とか重要度の違いではなくて、小刻みに読む場所が色々と変わって、その都度、手元にある付箋がバラバラだから、という…。

 

 本題。

 

 本書「アイデアは交差点から生まれる」のサブタイトルは、「イノベーションを量産する『メディチ・エフェクト』の起こし方」で、原題は「The Medici Effect: Breakthrough Insights at the Intersection of Ideas, Concepts & Cultures(メディチ効果:アイディアの交差点で生まれる革新的発見?)と言います。

 

アイデアは交差点から生まれる イノベーションを量産する「メディチ・エフェクト」の起こし方

アイデアは交差点から生まれる イノベーションを量産する「メディチ・エフェクト」の起こし方

  • 作者: フランス・ヨハンソン
  • 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
  • 発売日: 2014/09/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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 メディチ、とはもちろん、15世紀、ルネサンスの中心都市、イタリアのフィレンツェで、その栄華を支えた金融一族のこと。

 なぜ、あの時代、多くの才能がフィレンツェに集まり、花開いたのか。フィレンツェの勃興の中で、メディチ家の果たした本質的な役割とは何だったのか

 …という、欧州中世史の本でもなければ、都市論の本でもありません。

 

 個人的には、そういうアイディアと都市との関係性の方が興味があるのですが。

 

 本書は、21世紀の現代に生きる我々がどのようにしてルネサンス期の天才たちのようなアイディアを花開かせることができるか、という考え方の本です。

 

 メディチ家が支えたフィレンツェが特殊な街だったのは、多様な才能を持った人たちが1つの都市に集い、その才能をお互いに刺激しあったから。

 

 フィレンツェで銀行業を営み反映したメディチ家は、幅広い分野の文化人や芸術家を保護した。メディチ家やその他のいくつかの資産家のおかげで、フィレンツェには彫刻家や画家、詩人、哲学者、科学者、金融業者、建築家など多種多様な人びとが集結した。彼らはそこで出会って互いに学び合い、互いを隔てる文化や学問の障壁を取り払って交流した。彼らは手を携えて新しいアイデアに基づく新しい世界をつくりあげ、のちの世にいうルネッサンスを花開かせた。

 

 この複数のアイディアが行きかう「交差点」が、現代社会では、具体的な1都市に限定しなくても、世界の至るところで発生できるのではないか。

 なぜならば、世界規模で人の移動が活発になり、科学分野で学際的研究の重要性が高まり、コンピュータ技術の発達で事務処理や情報通信が高速化しているから。

 

 例えば、ロック音楽の黎明期、ロック・バンドの楽器編成は限定的で、曲構成にも一定のパターンがあり、ただしヴォーカルには多様性があった。たとえば、これを4×12×50通りの2400通りとする。一方、クラシック音楽は使える楽器も多様で、曲構成も複雑、しかしヴォーカルの比重は大きくない。これも30×40×2の2400通りとする。

 ここで、ロックとクラシックの両方に精通した人がいたら、どうか。ロックとクラシック、それぞれのパターンと多様性を自在に操ることができたら。

 使えるアイディアは、4×30×12×40×50×2通りとなって、約570万通りにまで増える。マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」とは、まさにそういうアルバムだった。

 複数のアイディアが交差するところで、アイディアは爆発する。

 

 本書は前半では、そのような「交差点」の効果について説明し、後半では多様だけれども、まったく新しい概念であるがゆえに失敗するリスクも高いアイディアを、どのようにして形にしていくかを述べます。

 そして、まったく新しいアイディアを実現する上では、リスクを減らす努力よりも、リスクはリスクとして受け止めた上で、それでも乗り越えようと挑戦することが重要だ、と指摘します。

 失敗しないように丁寧に現状を見極めながら、挑戦して失敗しかけたときにこそ、そのアイディアの改善点が見え、よりよいアイディアへと洗練されていくのだ、と。

 

 本書の前半で述べられているアイディアを交差させる、という発想方法は、個人的には、おそらく平均的な日本人よりも得意にして、ずっとやってきたことで、あまり新しい発見はありませんでした。

 自分は、ときどき、良くも悪くも突飛なアイディアを出す人間として評価されることがありますが、自分としては人生のかなり早い時期に天才でもなければ、オリジナルのアイディアを出す能力もない、と諦めているのです。

 ただ人よりも貪欲な好奇心で雑多な知識は持っているので、それをどう組み合わせるか、は結構、心血を注いでやってきました。

 Aという分野では当たり前のことをBという分野に当てはめると、ちょっと新しく見える、あるいは当てはめるための微妙な改変が本当に新しいものを生む、というような。

 他の皆さんも意識をすれば、自分と同じように交差できるようになるのか、人によって得意・不得意があるのかは分かりません。

 個人的には、割と得意な方の自分ですら、交差を意識しつづけることは中々、難しく、そのためにも偶然の出会いをもたらす「街」であったり、街の中の「人が集まる場」というものの重要性は、依然、必要と思うところです。

 このインターネット時代でも減らないどころか、新しいアイディアの生み出す必要性が強まる中で、むしろリアルな交差の場の重要性は高まっていくのではないか、と。

 

  その辺は、この店が本質的に目指す場所でもあるので。

 

beerhousecubed.hatenablog.com

 

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 ただ、その一方で、たとえば自分が、新しいアイディアを思いついても、中々、大きく世の中を変えるに至っていない、という点については、ただアイディアを思いつくだけでは何の価値もなく、それをどうやって諦めずに実現していくか、という後半の指摘は、中々、刺激的であり、今後も、小さいことを積み上げながら、色々とやっていかねば、と思わされたところです。

 まあ、大学の研究室にとどまった人たちのような、世紀の大発見とかはないでしょうし、リチャード・ブランソンのような蛮勇は自分には発揮できませんが、この街が面白い街であり続けるための取り組みは、少しでもやっていければ、と。