Beerhouse³ 営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋やってます

山内「ここは退屈迎えに来て」を読む

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  どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse³」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 住宅関連の調査研究をやって「住みたくなる街」、「魅力的な街」について発信している島原万丈さんがちょっと前にツイートしてた山内マリコの短編集。ツイートで紹介してたのは映画版でしたけど、とりあえず小説版を読みました。

 

 

 

 

 島原さんのツイートのとおり、地方都市で街づくりとか、地域活性化とかに関わっている人は一度読んでおくべき、重要な視点が含まれている本でした。

 

 作者の山内マリコは1980年生まれで富山市出身。本書は、2008年のデビュー作を含む、8編の短編を集めた2012年作品なので、当時30歳前後。

 8編の主人公である女の子(?)たちに直接の接点はないのだけれども、いずれも彼女たちと対比して描かれる、明朗快活でスポーツもできる「陽キャ」の椎名君を軸に、結婚してパパになった椎名君から、地方都市の「スター」だった中学時代まで時間を遡る形で話が綴られています。

 

 時代としては、出版から10年くらい経っているので、スマフォ、SNS、LINE、メルカリ、ネトフリ、ようつべ、スポティファイとかがまだないんだなー、という時代感は若干ありつつも、西松屋ハードオフヤマダ電機、スタバに侵食された、富山とおぼしき、とある雪国の地方都市の生活を、それぞれの主人公によるエッセイ、あるいは当時のメディアで言えば、ブログのように自然な文体で切り取っています。

 

 作者がどの程度、意図的、戦略的に主人公たちのキャラクターを設定したかは定かではありませんが、椎名君との対比で強調され、だいぶデフォルメされて書かれてはいるものの、読者に「ああ、こういうヤツっているよね、○○みたい」とか、場合によっては「これは自分のことだ」と思わせる人物たちが描かれています。

 現代日本で「小説を読む人」というのは明らかに、ちょっと特殊なマイノリティなのです。ごく限られた勉強のできる人たち。いや、中学とか高校で「学校の勉強はもういいや」と思って学歴はそこそこで止めた人はいるかもしれないけれど、自分の意思で本を開き、文字を追って、それを頭の中で昇華できる、というのは誰にでもできることではない…らしい。信じられますか、みなさん。

 もちろん、逆に学校の勉強がしやすい、しなくてはならない環境にたまたまいたから学歴が高いだけのマヌケも世の中にはいくらでもいるけれど。

 

 この本に出てくる主人公たちは、割とそういう、鬱屈として単調な地方都市で、凡庸で愚鈍な陽キャたちは楽しそうに暮らしているけれど、より意味のある人生を求める知的な自分たちは彼らに共感できず、かといって刺激に溢れ、華やかな東京も自分の居場所ではない、という葛藤を抱えて生きています。

 

 

 で、地方活性化という視点に話を戻すと、実は自分はあんまりこっち側の人間じゃないんですよ。ごめんなさい。

  地方都市でクラフトビールとかいうマイナーな商品を売っていると、たまにそういう感じのお客さんとは出会うんですけども。

 自分も若くはないので、彼らに共感は出来ないまでも、理解はできるし、何か力になれることはありますか、とは思うけど、一方で、自分とはちょっと違う属性の人だな、と思ってしまう。

 

 この短編集は、その点、タイトルが秀逸で「ここは退屈迎えに来て」というのは、こういう人たちの考え方をすごく象徴していると思います。 

 退屈なら自分の力で楽しくすればいいし、誰かに迎えに来てもらうのではなく、自分の足で踏みだしたらいい。

 

  とはいえ、これからの地方都市を退屈でない場所にしていくためには、こういう人たちの存在が重要なんだろうと思う訳です。

 地域活性化に興味がある人たちだけで閉じた活動をしていても、たぶん、それでは空回りで、こういう、知的だけれども、積極的には活動していない人たちを、どれだけ味方に引き入れることができるか。あるいは、彼ら自身に主体的、能動的な活動を始めてもらえるか。

 退屈だと言って無為に人生を過ごすのでもなく、都会に逃がすのでもなく、何か地域に意味のある活動に参加してもらうためには、何ができるのか。

 それを考える第一歩として、まずは、こういう人たちは確かに存在してるよな、という現実を確認することが重要と思った次第です。

 

 映画版もそのうち見…る…つもり…なにしろ、かれこれ10年以上、家で映画を見るという行為をしてないので動画配信サービスにも加入しておらず…。