どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse³」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。
久しぶりに読書の感想。今日のは正直、「読んだ」って記録だけで、あんまりオススメじゃない。
読んだのはメタル好きの脳科学者、中野信子さんの「メタル脳」。
著者の中野信子さん、ここ数年、メタル界隈のメディアで「メタル好きの女性科学者」として、たまにお見かけするけど、何しろ10年テレビを見ていないので、一般メディアでどういう活動をしているのか、どういう客層に支持されている方なのか、まるで存じ上げない。
そういう意味で、この本の読後の感想としても、誰に向けて書いた本なのか、よく分からなかった。
たとえば、著者と同年代(1975年生まれ)の女性で、そろそろ子どもが中高生になってメタルを聴き始めたことを親として悩んでいる、みたいな人に「大丈夫ですよ」と語りかける本なら、成立しているのかもしれない。
あるいは、メタルを切り口として、心理学、社会学や脳についての「雑学」を拾い読みする「軽い読み物」としても悪くないのかもしれない。
ただ、それなら編集方針として、もっと若い子(たとえばメタル好きのアイドルの女子など)が脳科学者のところに相談に行って、1つ1つ、「こういう実験結果があってね」とか「私の経験では…」とか回答するような体裁でマトメる編集方針もあったのではないか、と感じる。
周囲と孤立した思春期を送った著者がメタルに救われた、という体験談は共感できる部分もかなりある。
また、欧米での統計的な調査で、そういう人間がメタルを愛聴する、という報告があることも有名な話だ。
ただ、それ以外の視点については、かなり牽強付会な上、首尾一貫しない論述が目立つ。
そもそもメタルはマイノリティの音楽なのか。ならば日本人全体にメタル的な要素があるとは何なのか。キリスト教的な西洋ではマイノリティでも、日本では普遍性があるのか。ならば、あなたや私がメタルに没入することで距離を置いた日本の社会とは何なのか?
「読み物」、「お話」としては面白いのかもしれないが、違和感がぬぐえない。
本書内で、著者により「反証可能性」という概念が紹介されているが、充分に反証を加えて、吟味したとは到底、思えない意見が随所に目立つ。
先ほどの欧米での統計調査についても、「有名な話」と書いたとおり、学会レベルを超えて一般メディアで報道されている研究ばかりだ。それこそメタルを聴く優秀な人間なら既知のものばかり、という印象で、最新の学会報告や、科学者としての著者の独自の視点による突っ込んだ解説などは見られない。
「メタルが賢い人の音楽だ」と言うなら、この程度の内容ではメタルを聴く人間は納得しない、という点は考えなかったのだろうか…?
それとも、冒頭に書いたとおり、やはり本書は「非メタラー」向けに書かれており、メタルヘッドが読むことが間違いなのだろうか。であれば、メタラーが手に取ってしまうような販売戦略の失敗ではないか。
そもそも、10年ほど前、自分がテレビを見ていた末期にテレビで見かけた「脳科学者」には、およそ科学的とは言えない論を展開する、かなり胡散臭いタレントが散見されたのだが、著者の中野氏も、そういう芸風を継承している人なのか、と疑わざるを得ない内容だった。
メタルも、心理学も大脳生理学もそれほど詳しくない初学者相手に数字を稼ぐためには、そういう商売も成立するのだろうが、そういう姿勢は、まさに著者が本書で批判する非メタル的な、ポップ・ロック的価値観ではないのだろうか。
音楽が脳に及ぼす影響を研究するのが専門なのであれば、少なくとも、メタル的な音塊と、その他のジャンルは周波数や音量、といった物理的な特性の何が違うのか、一般にはメタルに近似だと思われている音楽と、メタルはどこで分けることができるのか、といった学術的な意見を読みたい、と感じた。
つうか、Linkin Parkのように商業的に成功し、一般層に届くメタルの要素を持った音楽も個人的には超重要だと思うけれど、Kornはそれと同列の売れ線の音楽じゃねぇだろ…? Kornを一般的なメタルとは別種と断じる、その根拠はあなたの好みだけではないのですか…?