どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse3」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。
先日のプライスウォーターハウスクーパースのビリネオアの本では、成功した起業家の一般的なイメージ、「これまでにない市場を開拓し、一夜にして成功した若きIT長者」は実際とは違っていて、実は、比較的、長期間の努力により、既存産業の中で、ある程度の経験を積んだ後に成功した人が多いことを示していましたが、本作は、その逆。
本書「Yコンビネーター」は、これからビリオネアになろうとシリコンバレーに集まってきてIT関連の事業を立ち上げ、ベンチャーキャピタルからの出資を募ろう、という若者たちを追うドキュメンタリー、です。
Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール
- 作者: ランダル・ストロス,滑川海彦,高橋信夫,TechCrunch Japan翻訳チーム
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2013/04/25
- メディア: 単行本
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PwCのようにもう少し分析的、体系的な本を期待していたのですが、かなり私情を排して目の前で繰り広げられる事実を丹念に拾っていく(もちろん、どの事象を拾うか、にある種の編集作業は入るし、そこに著者の主観は反映されるわけですが)、まさにドキュメンタリーといった印象。
なので、ある種、冗長で散漫な感じもあり、個人的には購入前の印象ほど興味をそそられなかったし、読む人を選ぶ本だとは思います。
たとえば100年くらい経って、2000年代の最初の10年を牽引したシリコンバレーのITスタートアップ、ベンチャーキャピタルとはどういう存在だったのか、を振り返るには、貴重な同時代記録となるかもしれません*1。
あるいは、これからまさにITベンチャーを立ち上げ、シリコンバレーに渡って出資を募ろうとしている人たちや、出資をする側に回りたい、と思っている投資家には、これから待ち受けている世界を想像する助けにはなるかもしれません。
ただし、繰り返すけれども、それほど体系的に整理された記述があるわけではありません。
なので、我々のように枯れた産業で、非・技術系のイノベーションによって、新規創業・業務拡大を目指す人間にとっては、自分の事業の参考になるようなイメージはますますつかみづらい。
最低限、本書に成功例として名前が出てくるドロップボックスやエアB&Bの存在くらいは知らないと、内容を追うことすら苦労するかもしれません。
なぜ、体系だった記述がないかと言えば、歴史学出身の著者の姿勢もあるのでしょうが、それに加えて、本書の表題であり、主たる取材対象であるベンチャーキャピタル、Yコンビネーター社の投資スタイルが、まさにそういう姿勢だからでしょう。
Yコンビネーターが支援対象とするのは、ベンチャーの中でも真のスタートアップ、大半が大学を出たばかりか、あるいはまだ在学中の若者で、事業も試行的に立ち上げたばかりか、あるいは、これからやっと立ち上げる、という段階の企業。
その時点の企業を、本当に社会を変革していく会社か見極めることなどできない。
だから、同じ1億円を投資するのでも、成功確実な1社に1億円を投資するのではなく、100社に100万円ずつを投資して、そのうちの1社でも大きく化ければそれでよい、といったスタイルになる。一方、実績のない若者たちが立ち上げたばかりの企業にとっては、その100万円でも初期投資として大変、ありがたい。
投資対象を決める企業の選抜試験は存在するけれども、それも事業のアイディアよりも人物やチームワークに重点を置き、場合によっては、事業内容を抜本的に変更させることすらある。
また、これまでの自分たちの創業経験や、創業支援の経験を通じて、「デモ・デイ」までの3か月間、シリコンバレーに移住してきた創業者たちをみっちり指導する。
そして、これまでの成功経験から、Yコンビネータに有望な起業家が集まり、それを支援したいと考えるベンチャーキャピタルが集まることで、より有望な起業家支援が行われる。
とはいえ、取材が行われたのが2011年で、原著の出版が2012年、日本版が2013年、というわりには、この2011年卒業生で日本の一般エンドユーザまで名前が聞こえてくる企業はあまりないので、ベンチャー支援というのは、中々、難しいのだな、と思う次第。