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どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse³」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。
前回、メタルかメタルじゃないかの線引きを主に「タテ」で書いたら、いくつかのご質問をいただいたのが全部「ヨコ」に関するものだった。その視線はなかった。ヨコの多様性なんてメタルにとって、あって当たり前なんだが…。
なお、今回も表向きはメタルの話を書く。表向きは。
metaphor
名
《言語学》隠喩、暗喩、メタファー◆二つの全く異なるものを比較または関連付ける修辞技法。
metaphorの意味・使い方・読み方|英辞郎 on the WEB
さて、前回はタテ、メジャーかインディーズか、メインストリームか傍流か、オーバーグラウンドかアンダーグラウンドか、つまり、メタルのタテの広がりについて書いた。
そしたら「アレはメタルなんすか?」といただいた質問は、ほぼヨコ、つまり隣接ジャンルとメタルの境界をどこに引き、どこまで認めるか、という話だった。
いやー、メタルっつうのは基本的に雑食性が強くて、どんどん他ジャンルを取り込んで境界を広げていく音楽であって、横の線引きとか、あんま意味なくないっすかね?
中にはピュアメタルしか認めない原理主義的な人がいるのも存じておりますけども…。個人的には、新しい要素を取り込んでいかないと、発展性がなくて、やがて停滞、衰退すると思うんですよね。
と言う訳で、今回は主にヨコ、他ジャンルとの境界にある、あれもメタル、これもメタルなヤツを。
- メタル×クラシック
- メタル×ケルト音楽
- メタル×ヒップホップ
- メタル×南米音楽
- メタル×ハードコアパンク
- メタル×メロコア
- メタル×エモ
- メタル×エレクトロニカ
- メタル×シューゲイザー
- メタル×黒人霊歌
- メタル×インド音楽
- メタル×アイドル
- (アフィリンク)
メタル×クラシック
Angra "Evil Warning" (1993/94)
ブラジルのメタル・バンド、Viperの1989年のアルバムでベートーヴェンの「月光」を取り上げた後、音大進学のために脱退していたアンドレ・マトスを、ラファエル・ビッテンコートが誘って結成したバンド、Angra。
この曲では、ヴィヴァルディの「四季」から「冬」を引用。
事情は忘れましたが、日本盤が最初に出て、その後、欧州盤が出るに当たって一部の楽曲をミックスし直したうちの1曲(日本ではEPに収録)で、こちらはリミックス版。
メタルの源流たるブリティッシュ・ハードロックでも、キース・エマーソンとか、ジョン・ロードとか、鍵盤奏者を中心に元々、クラシックの素養がある人たちは多いので、クラシックは取り上げられがち。
…あ、メタル×ジャズも少数派ながらいますが、今回は割愛。
メタル×ケルト音楽
Eluveitie "Thousandfold" (2010)
ドイツ語圏スイスのバンド、Eluveitie。バンド名の由来は、現在のスイスに古代ローマ時代に割拠したケルト系のヘルウェティイ族。アップル社の英語フォント、ヘルヴェティカの由来と同じですね。
ロックが、ハードロックを経てメタルへと進化する過程で、イギリスとアメリカが大きな役割を果たしたので、それらの地域に昔から伝わる民謡として、ケルト要素もまあ普通にメタルに取り入れられがち。アイルランド出身のThin Lizzyとかね。
特に、このEluveitieとかはペイガン(異教徒)・メタルの流れにあります。メタルの重要な要素である、反キリスト、邪教崇拝の視点から、キリスト教化以前の土着宗教の要素として、北欧や東欧のバンドとかが、民族音楽を積極的に使って異教感を表現するやつ。
メタル×ヒップホップ
Anthrax feat. Public Enemy "Bring The Noise" (1989/91)
誤解を恐れずに言えば、メタルの発展史として、アメリカで白人向け黒人音楽から生まれたロックから黒人要素を抜き、クラシックや欧州民謡のような白人文化を強めて(「漂白」して)進化した、という流れがあるのだけれども、そうは言っても、ちょいちょい黒人音楽の再導入は試みられる。
1980年代にヒップホップが白人に受け要られる契機となったRun D.M.C.によるAeromsithのカバー"Walk This Way"や、白人ヒップホップ・グループのビースティ・ボーイズを仕掛けたデフジャム・レコードのリック・ルービンは、メタル界隈では(と言うか俺にとっては)、あくまでも、あのSlayerのプロデューサーとしての方が有名だし。
これは、Public Enemyが1988年に出した曲(レーベルはデフジャム)を、91年にAnthraxがPublic Enemyのメンバーを呼んでカヴァーしたもの。その後、2組によるツアーも行っている。
Anthraxは、メタル・シーンの中でも雑食性が強いニューヨークを中心に活動し、後述するハードコア・パンク、さらにはヒップホップのシーンとも交流があり、あるライヴでメンバーのスコット・イアンがPublic Enemyのシャツを着て出演した、という話を聞いたPublic Enemy側がこの曲の発売時に言及したことで、縁が生まれたらしい。
これ以降、1990年代には、ヒップホップの隆盛そのものを受けて、多くのメタルバンドがヒップホップ要素を取り入れ、タテノリの速いメタルからリズム、グルーヴ主体のメタルを構築していく。
メタル×南米音楽
Soulfly "Umbabarauma" (1998)
メタルと言えば速い音楽…から、速さへの限界と、ヒップホップをはじめとする他ジャンルとの影響から、1990年代には、うねるようなリズムを特徴とするグルーヴ・メタルが勃興したのは前述のとおり。
ここに北欧や東欧の民族音楽とは異なる、グルーヴ主体の南米音楽を導入して成功したのがブラジル出身のSepultura。
そのSepulturaの中心メンバーながら、人間関係のもつれで脱退したマックス・カヴァレラの新バンド、Soulflyのデビュー作に収録された、ブラジル人ミュージシャン、ジョルジ・ベン・ジョールのカヴァー。
メタル×ハードコアパンク
Hatebreed "I Will Be Heard" (2002)
どちらのジャンルも聴かない人には同一視されがちだけど、当事者にとっては大問題なのが、メタルとパンクの違いですよ。全然、違う。
しかし、全然、違うとは言え、やはり両方を聴く人たちはいて、相互に影響を与えあって進化している。そもそも、ハードロックとメタルの境界線は、パンクの影響を受けたか受けていないか、と言っても過言ではない。パンクの影響を受けて攻撃性を増したハードロックがメタル。
パンクがハードコア・パンクに進化すると、今度はハードコアの影響を受けてメタルはスラッシュ・メタル、さらにデスメタルへと進化していくが、引き続き両方を同時に聴く人間も一部にいた。
2000年代初頭、一度は死んだアメリカのストレートなヘヴィ・メタル・シーンの復権で一翼を担ったのは、実はハードコア界隈にいてヘヴィメタルを聴いている連中だった。メタルとハードコア・パンクでメタルコア。これが2000年以降、北米メタル・シーンの主流となっていく。
Hatebreedは、その中でもハードコア寄りのバンドの1つ。メタルの影響を受けたハードコア。
メタル×メロコア
A Day To Remember "All I Want"(2010)
自分はハードコア・パンク界隈の住人ではないので、界隈の人たちがメロコア、メロディック・ハードコアをどう評価しているかは、よく知らない。
ちなみに日本ではいまだメロコアと呼ばれて隆盛を誇るけれども、アメリカではどっちかと言うと、ポップ・パンクと呼ばれることが多いようだ。まあ、そんなにハードコアでもない。
さて、前述のメタルコアの流れの中で、ハードコアのサブジャンルであるメロコア要素を取り入れるバンドも当然(そんなに多くはないけど)、出てくる。
フロリダ出身のA Day To Rememberによる、この曲には数々のバンドのメンバーがゲスト出演。Wikipedia英語版によると出演バンドは、Parkway Drive、The Devil Wears Prada、Bring Me the Horizon、Architects、Maylene and the Sons of Disaster、Silverstein、Andrew W.K.、August Burns Red、Seventh Star、Trivium、Pierce the Veil、MxPx、The Acacia Strain、Veara、Set Your Goals。
まさに、メタルとメタルコア、メロコア界隈における彼らの人脈がどれだけ広いかを表す出演者となっている。
メタル×エモ
Funeral For A Friend "Oblivion"(2007)
まさか20年経ったら「エモい」が一般人の口にする言葉になっているとは思わなかった。2000年頃からハードコアのサブジャンルからメインストリームへと食い込んだエモーショナル・ハードコア、すなわちエモも、もちろん当時のメタルコアの流れに乗って、メタルと融合する。
と言うよりも、先にあげたHatebreedやA Day To Rememberの方がやや特殊形態で、2010年以降のメタルコアはだいたいエモ要素が入ってる。
当初は、スクリームするエモでスクリーモとも呼んだり、エモメタル、メタリーモとか呼ばれたりもしたけど、もはやただメタルコア、せいぜいスクリーモとしか呼ばれていない気がする。
Funeral For A Friendは、イギリス・ウェールズ出身。エモ寄りのメタル、メタリックなエモ・バンドは、やはり陰鬱なメロディを乗せやすいのか、イギリス出身のバンドもかなり出てきましたね。
90年代のイギリス・メタル・シーンとか、無風もいいところだったんですけども。
メタル×エレクトロニカ
Attack Attack "Stick Stickly"(2008)
メタルコアにエレクトロ要素を入れて、アメリカでは「エレクトロニコア」と呼ばれる連中。日本では「エレクトリーモ」、あるいはピコピコした電子音から「ピコリーモ」の方が一般的なんですかね。
最近は1つのジャンルというよりは、エモ寄りのメタルコア・バンドはまあ普通にエレクトロ要素も取り入れますよね、という感じ。
80年代末~90年代にはノイズ/インダストリアルと接近したインダストリアル・メタルなんかもありましたね。
Attack Attack!のこのPVは、メンバーの動き方も、まあ、なんつうか、この時代の空気…。しかし、Attack Attackなら絶対にこのPVだろと思って選んだけど、イントロからもっとずっとピコピコ鳴ってる曲の方が分かりやすかったか…?
メタル×シューゲイザー
Deafheaven "In Blur"(2021)
反キリストを突き詰めたメタルのサブジャンル、ブラック・メタルには元々、轟音の中でヴォーカル以外の楽器による幽玄なメロディが浮遊していく、というアンビエント音楽的な要素があったのを突き詰めて、ブラック・メタルとポストロック、シューゲイザーを融合させた、「ブラック・ゲイズ/メタル・ゲイズ」。
当初はもう少しブラック・メタル要素があったバンドだった気がしますが、ここ数作、アルバムを重ねるごとにシューゲイズというかドリーム・ポップ寄りに進んで2021年の現在最新作でここまで到達…。メタルの出自は感じられるものの、さすがにここまで来るとメタルと呼べるか…。
でも、逆にシューゲイズの人たちからは「メタルすぎる」とまだ言われそうな気も…。
メタル×黒人霊歌
Zeal & Ardor "Golden Liar"(2021)
これはジャンルとして成立してるわけではなくて(自分が知る範囲では)唯一無二のZeal & Ardor。
反社会、反キリスト、異教徒の要素として民族音楽をメタルに導入し、さらに黒人的なグルーヴをメタルに導入することがアリならば、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人のヴードゥー的要素ももちろんメタルとして成立する、という特異点。
アフリカでメタルやってる連中もいるらしいので、そのうちアフリカ民族音楽のメタルバンドとかも出てくるんですかね。もう存在する…?
メタル×インド音楽
Bloodywood "Machi Bhasad"(2019)
メタルに民族音楽を入れるのがアリなら、別にロックの源流である黒人、白人以外の音楽でもイケる理論。
まあ、Led Zeppelinも既に、ケルトの他に、インドとアラブ音楽も導入してましたしね。当然、中近東ベースの民族メタルも存在します。あとモンゴルとか。
彼らは、このPVくらいからネット上でバズって、パンデミックを経て、今年は北米の大型フェスなんかにも呼ばれているようです。
メタル×アイドル
Babymetal "Ijime, Dame, Zettai (Nemesis ver.)"(2012)
アイドルは他のグループにしようかとも思いましたが、一応、オリジネイター、ということで。
歌メロや声がもうちょいアイドル歌謡っぽい人たちもいて、それは個人的にはキツいと思うところですが、楽曲がよければ、まあ、いいんじゃないですかねえ。
小室哲哉以降の中高生女子がカラオケで歌うことを前提としたJ-POP、アクターズ・スクール以降の女の子の習い事としてのアイドル、という環境が本邦では25年続いた中で、ある程度、歌が上手い子をプールしておく存在として、アイドル業界があり、かねて、ハイトーンをちゃんと歌えるヴォーカルの確保という課題が特にメタルの場合はある中で、この組み合わせは必然という感じがします。
なお、このNemesis ver.は、当時Arch Enemy、現Dark Tranquilityのクリストファー・アモットがゲスト参加した別ミックス。
とりあえず、今回はこんなところで。
以上、見て(聴いて)きていただいたとおり、ヨコについては、あくまでメタルっぽさがあれば、別にどういうジャンルとの組み合わせでも、大抵メタルとして成立すると思うので、ヨコの定義はあんまり意味ないな、と思いますね。
以下、収録アルバムのアフィリンク。まあ、AngraとかBabymetalとかは普通のアルバムに入ってるのとミックス違いなんで、アルバム買っても聴けないんですけども。