Beerhouse³ 営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋やってます

大川内「アイデア資本主義」を読む

 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse³」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 相変わらず本を読む速度が遅い(ナナメ読み/拾い読みが出来ない)のですが、久しぶりに1冊読んだ。

 著者の大川内直子さんは、東大で文化人類学を専攻した後、みずほFGに就職、2018年に独立して文化人類学の手法を活かした企業向け調査事業を行っている、という経歴。

 拡大成長を前提とした資本主義は成長余地(フロンティア)の減少により破綻が近いとたびたび言われているが、成長の方向性が変わるだけで、まだまだ続くのだ、という主張。

 

 

 資本主義(Capitalism)は、システム(仕組み)だと思われているけれども、本来の字義どおり、主義(-ism)、つまりは思想であり、考え方なので、そう簡単には現代人は手放さない、というのが基本的な主張らしい。

 その基本的な考え方とは、社会は未来に向かって前進する(よりよい社会になる)のであり、資産をすべて消費するのではなく、計算による未来予測の上、資産の一部を未来に投資しよう、というもの。

 

 そして、十字軍、大航海時代帝国主義といった版図の拡大や、科学技術の進歩、あるいは個人の蓄財から子孫への継承、さらには株式会社による永続的な資産形成など、確かに、これまで人類が広げてきた経済の基盤は、いよいよ拡大余地が少なくなってきている。

 しかし、それでも、たとえば、農地の収量増加や、あるいは取引の短時間化など、経済基盤を外へと広げていかなくても、内側に向かって高効率化することで、成長の余地はある、と指摘。

 中でも、最も投資効果が高いと著者が主張するのは、タイトルの「アイデア」。人の頭の中に新しいフロンティアがあるのだ、と。

 

 

 前半の資本主義は、考え方であり価値観、世界観だという主張は、大変、納得できる。

 また、この、将来はよりよくなるはずだ、という思想は強くて、そう信じることによって、実際、西洋社会(とその思想を受け入れた東洋の一部)はこの数百年、世界を大きく前進させてきた。

 だから、これからも成長可能な新しいフロンティアを人は探し続けるのだ、というのも、まあ、そうだろう。

 

 ただ、そこで投資対象になるのが、アイディアなのだ、と言われると、素直に首肯できない。

 これは、とりあえず、ダブついた金を突っ込む先として、とりあえずアイディアに賭けてみよう、という人が今、多いだけのことで、確かに、この流れがより強くなり、デファクト・スタンダードとなる可能性はあるけれども、必ずしも、不可避の流れ、必然とは思えない。

 本書の中でもさらっと触れているけれども、セラノスのような詐欺師にどう対処するか、という安全装置があまりにも脆弱で、多くのまっとうな人間は、この賭けにはついていけないのではないか。

 もちろん、資本主義というのは、そういうリスクを掴みにいった人だけが、果実を手にすることができるのかもしれないが。

 

 本書中でもキリスト教ユダヤイスラムなどの商取引に対する態度を紹介しているけれども、資本主義が思想なのだとしたら、こういう過度なリスクを要求する社会や、不安定化を招く社会は、安定を求める人たちによって、思想的に忌避され、禁止される未来は来ないと言えるだろうか。

 たとえば、ヨーロッパの環境左翼などは、社会の前進そのものを悪としているように見える。少なくとも日本で活動する劣化コピーは。

 個人的には、後退主義者が趨勢となるよりは、社会の進歩を志向してほしいのだけれども、でも、強く進歩を志向する側があまりにもマヌケな詐欺師を持ち上げ続けるような社会だと、結局は大衆の支持は得られないのではないかなあ…。