どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse³」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。
また飲む人いるか分からんのに自分が飲みたいだけで海外のマニアックなビールを取ってしまった。まあ、今回はボトルですし、エイジングもできるので(インポーターさんが設定した賞味期限は2031年9月!)、心配なのは冷蔵庫の容量だけ。
というわけで、1996年創立、カリフォルニア州ロサンゼルスの北、サンタバーバラ郡からファイアストン・ウォーカーの去年にリリースされた25周年記念ビール、その名も「XXV」*1が日本に上陸。
そもそもクラフトビールって何?
まあ、人によって考え方が色々とあるとは思うんですけど、個人的にはヨーロッパの伝統的なビールづくり(あるいは日本酒などの世界の醸造酒)の歴史に敬意を払いつつ、大手の工業的に大量生産した(つまり大衆受けするように画一化された)ビールとは違う味を狙った、穀物の醸造酒の可能性を広げようとする飲み物、のことだと考えています。
この10数年、日本ではクラフトビール = IPA、西海岸のガツンとホップの効いたインパクトのあるビールや、ここ数年はヘイジーのトロピカルな香りのヤツが人気です。人気なのは分かるんですけど、せっかくなら、もっと色んな味のビールを飲んだ方が面白くない? とか個人的には思うんですよ。
まあ、嗜好品なんで人の好みはそれぞれでいいんですけど、うちの店は基本的に、そういう考え方のヤツがやってます、てことで。
ファイアストン・ウォーカーについて
(1)ファイアストン・タイヤ
「ファイアストン」という名前を聞いて、アメリカの古い自動車や自動車レースに興味がある人なら、あのタイヤメーカーと何か関係があるの? と思うかもしれません。
正解。
ファイアストン・ウォーカーのルーツの1つに、1900年創業のタイヤメーカー、ファイアストンがあります。
ファイストン・タイヤの創業者、ハーヴィ・ファイアストン(wikipedia)の次男で、1907年生まれのリナード・ファイアストンが1970年にファイアストンを退職し、そのまた息子(ハーヴィの孫)で1939年生まれのブルックス・ファイアストンも後を追うように退職して、家族でカリフォルニアにやってきます。
1970年代前半と言うとちょうどベトナムとか中東とかの戦争の影響もあり、古き良きアメリカ自動車産業が没落しはじめたころなので、退職の背景には、そういう環境の変化もあったのかもしれません。
ちなみに、ファイアストン社はその後、事故原因などの訴訟を抱えて経営悪化し、日本のブリヂストンに身売りして、現在ではブリヂストンの北米向けブランドとなっています。
(2)ファイアストン・ヴィンヤード
リナードとブルックスのファイアストン親子がやってきたのがカリフォルニア州サンタバーバラ郡のサンタ・イネス・バレー。ロサンゼルスの北、セントラル・コーストと呼ばれるエリア。
元々、ここに牧場を持っていた彼らは、以前からこの地域の気候を観察してワイン栽培に適しているはずと判断して、周辺の牧場主たちとともに、同地域でブドウ栽培を開始。はじめは、北部のナパ・バレーのワイン事業者向けに出荷し、ついで、同地域初となる、自分たちのワイナリーでワイン醸造も始めます。
サンタ・イネスはその後、ナパに負けないワイン産地として発展し、カリフォルニアのワイナリーを巡るロードムービー、「サイドウェイ」(2004)の舞台は、実はこのサンタ・イネスとのこと。ワインに興味なさすぎて、てっきりナパだと思ってた。その後、日本でリメイクされたヤツはナパが舞台らしい。見てないけど。
(3)ファイアストン・ウォーカー
ブルックス・ファイアストンの息子、アダム・ファイアストン(熊)とその義理の兄弟*2でイギリス人のデヴィッド・ウォーカー(ライオン)の2人で1996年に立ち上げたのが、ファイアストン・ウォーカー。
なお、最初の醸造所はワイナリの一角を間借りして始めたのだとか。
熊はカリフォルニア州を象徴する動物であり、一方のライオンはイギリス。
カリフォルニアらしいクラフトビールの先進性と、イギリスらしい伝統的なエール醸造のハイブリッドを特徴としたブルワリとしてスタート。
開設当初からの看板商品、DBA = ダブル・バレル・エールは、ペールエール発祥の地、イギリスのバートンで当時、主流だった「バートン・ユニオン」と呼ばれる木樽発酵システムを参考にした独自の木樽発酵ビールとステンレス・タンクのビールをブレンドしたビールです。
下記サイトに伝統的なバートンのシステムと、ファイアストン・ウォーカーの現在のシステム両方について解説と写真があります。英語だけど。
そもそもワイナリーが出発点ということもあり、その後も木樽発酵・熟成ビールにも力を入れているブルワリです。
XXV
25周年記念ビールは、その名も「XXV(25)」。スタイル(ジャンル)はバレル・エイジ・エール。
そんなジャンルはない。
ファイアストン・ウォーカーの貯蔵庫に眠る木樽熟成(バレル・エイジ)のビールを複数ブレンドした、他のどのスタイルにも属さないオリジナルのビール、ということです。
本家のワイナリから移転して外に出たと言っても、引き続きワイナリの多い地域で操業しているファイアストン・ウォーカーの周年ビールは、2006年の10周年ビールのブレンドに周辺のワイン醸造家の助けを借りて以来、毎年、ワイン醸造家たちに声を掛けてブレンドしているのだとか。
そのやり方は、夏の収穫前、ワイン醸造家たちの仕事が落ち着いている季節に、近隣の醸造家たちを呼んで少人数のチームを作ってもらい、貯蔵庫から、バーボン、テキーラ、ブランデーなどのさまざまな木樽で寝かせたスタウトやバーレイワイン、ウィートワイン、サワーなどのビールを自由に5種類選んでもらい、最適なバランスでブレンドしてもらう。コレという味が決まったら、お互いのブラインド・テイスティングによる投票で優勝したビールをリリースする、というルールのようです。
普段、ビール醸造ではなく、ワインを造っている専門家たちのブレンド技術を加えることで、自分たちには作れない新しい世界が開ける、とのこと。
YouTubeに動画が上がってました。英語だけど。
今回の25周年に採用されたブレンドは、バーボン樽熟成のインペリアル・スタウト*3をベースに、バーボン樽熟成カリフォルニア・クアッド*4、テキーラ樽熟成ミルク・スタウト*5、ブランデー樽熟成ブロンド・バーレイ・ワイン*6、バーボン樽熟成ゴールデン・ウィート・ワイン*7の5種類。
詳細は、各ボトルごとにノートが添付されているので、ご注文いただいた上、そちらもご参照ください。英語だけど。
と言うわけで、お値段、安くはないんですけども、ご興味ありましたら是非! ちなみに355mlボトルで度数は11.5%です。
まあ、安くないって言ってもアレですよ、ワインだったら750mlのボトルが小売で3,000円くらい出すと、まあ、ちょっといいワインが飲めるじゃないですか。そこから、特に店で飲む場合には、上はキリがないですけども。
そんな感じで挑戦していただければ、ビールの新しい地平線が見えてくるかと!