Beerhouse³ 営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋やってます

モレッティ「年収は『住むところ』で決まる」を読む vol.4

 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse3」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 ちょいちょい本を読んで、その内容を興味ある方と共有できていければ、という企画の1冊目、エンリコ・モレッティ「年収は『住むところ』で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学」、原題は「The New Geography of Jobs」の、第4回の対象範囲は、第5章です。

 連休などもあってバタバタしており、前回からほぼ1か月も間が空いてしまいましたが、細切れにしてその都度まとめる、という手法が奏功して(個人的には)前回までの内容を復習しつつ、次に進むことができております*1

 

 これまでの4章では、アメリカの繁栄する都市がなぜ、ますます繁栄の要素を取り込み、さらに繁栄していくメカニズムを観察しました。

 

beerhousecubed.hatenablog.com

 

 第5章では、一転、衰退する都市にとどまる人たちは何故とどまるのか、そこに対策はあるのか、を主に低学歴の人たちを中心に考察します。

 

 アメリカ人はヨーロッパや日本人に比べて引っ越しをしやすい、と言われていますが、モレッティは、実は現代アメリカでは、高学歴者ほど引っ越して、より仕事の多い地域へと移っていくが、低学歴者は地元、多くの場合、仕事が減っていく地域にとどまる、と指摘します。

 繁栄する都市に移れば、繁栄した産業に従事する富裕層の消費により、低学歴者ほど大きな恩恵を受けられる、にも拘わらず。

 

 モレッティは、その原因として、いくつかの要素を挙げます。

 1つは、引っ越しにはコストを伴うため、そもそも生活が困窮している人たちは、衰退する都市から脱出する費用を賄えない。衰退する地域にとどまるため、失業状態が長引き、それによって技能の低下を招き、さらに生活が困窮するリスクがあるにも関わらず。

 これについて、モレッティは失業保険に引っ越し費用を上乗せする、等の対策を提案します。

 

 また、不動産の価値が市場メカニズムによって決定されるため、魅力的な都市ほど、不動産価格が高騰する、という問題点もモレッティは指摘します。

 住みたい人が多い都市ほど、当然、不動産価格は高騰し、それを賄える富裕層以外はその都市に住めなくなる、と。

 さらに不動産価格の上昇は、不動産の所有者には居住コストが増加せず、場合によっては賃貸や売却による利益が期待できる一方、賃借人は居住コストの増大を招いて、都市の外に弾かれてしまいます。

 

 モレッティの指摘によれば、一般的な都市政策では、都市開発を抑制し、成長産業の企業進出を抑制するか、新規の住宅建設を抑制することで、地域住民を守ろうとするが、それはいずれも好ましくない結果を招く、と言います。

 まず、成長産業の進出を抑制したところで、低成長の産業が新規に立地する可能性は低く、新しい雇用が生まれることはない。それであれば、成長産業の乗数効果に期待して、周辺産業の増加により低技能者も含めた雇用が生まれることを期待した方がよい。

 また、住宅建設を抑制すれば、当然、需給バランスから不動産価格はますます高騰してしまう。

 モレッティは住宅開発と公共交通の適切な政策を実施すれば、無秩序なスプロールや渋滞を回避しながら、都市の成長を促せるはず、と指摘します。

 残念ながら「適切な政策」については、高密度化による利便性の確保、という程度の紹介にとどまっており、本当に現実的な政策が採れるのかは、あまり納得できるものではないのですが。

 

 なお、本章については、アメリカの話で日本人は地元好きだから、当てはまらない、という思考が一瞬、頭をよぎりましたが、それでは東京一極集中、なんて問題は起こっていない訳です。

 やはり日本人も一部の人たちは仕事を求めて東京や、地方の中の大都市に移っているという現象はあり、また地方都市においては中心部の土地価格高騰に伴う郊外化、つまり都市機能の分散に伴う都市の魅力の希薄化、という現象もあるのだ、ということです。

 つまり、仕事や文化、土地価格といった魅力がある地域を適切なコストの下に提供できれば、そこに人が集まってくる可能性はある、ということは抑えておく必要があるように思います。

 もちろん、その適切なコストとはどの程度か見極め、そのコストに適正な魅力をどのように集積させ、それを住宅市場の中で周知していくか、というのは、生半可な課題ではない訳ですが。

 

 第6章以降については、なるべく間を置かずに紹介していきたいと思います。…思い、ます…。

 

年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学

 

 

 

 

 

*1:そもそも2014年の発売直後に購入し、一度読んでいるから内容はある程度理解している、というのもありますが