Beerhouse3営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋はじめました

雄ヤギのビール

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 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse³」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 ドイツのビールのジャンル、というか用語で「ボック」(Bock)、「ボックビア」(Bockbier)*1ってのがあります。

 基本的には、イギリスのIPAとか、スタウトやインペリアル・スタウトと同じように、アルコール度数が高くて、濃いビールって意味です。まあ、ビールは基本的には、アルコール度数を上げようとすると、モルトの使用量が増えて、味も濃くなるので。

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 元々、昔のビールは、材料である穀物は保存が効くけど、一度、ビールにしてしまうとアルコール度数が低いので保存が効かない生鮮食品って側面が強いのです。

 ワインの場合は、年1回、ブドウの収穫直後にしか仕込めないけど、ワインにしてしまうと長期保存できるのとは逆ですね。

 

 ビールは生鮮食品なので、基本的には、造ったその場で飲む、というのがヨーロッパの伝統的なビールの在り方です。

 19世紀以降、酵母の発見と冷蔵庫や密閉容器の発明により、工業化、大量生産の波が押し寄せる現代でもドイツでは、小さな村にもまだ醸造所が生き残っていたりするらしいです。ローカルブルワリー、地ビールですね。

 

 そんな中、ドイツでも例外的に、地域外へのビールの「輸出」に昔から注力していたのが、北ドイツ、ニーダーザクセンハンザ同盟都市、アインベック。

 14世紀にはすでに輸出を始め、東はアントワープから西はリガ、北はストックホルムから、南はミュンヘンまでビールを輸出していたらしい。

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 600年前のビールがどんな味だったかは想像するしかないのだけれど、IPAやスタウトの場合を考えると、おそらく当然の帰結として、輸出に耐える長期保存用に、ハイアルコールで濃いヤツだった可能性は高い*2

 

 やがてミュンヘンでは、アインベック風のビールを自分たちでも造る試みが始まる。それがバイエルン風に訛って生まれたジャンルが「アインボック」。

 

 で、ドイツ語で「アイン」は「1」、「ボック」は「雄ヤギ」という意味もあるので、いつしか、雄ヤギのように力強い1杯のビール、「ボック」と呼ばれるようになったのだとか。

 だから、バイエルン醸造されるボックには今もヤギのマークが描かれることが多いらしい。

 ギリシア神話山羊座の獣神パンの影響があるかどうかは知らないが。まあ、われわれ、メタルの民にとっては、西洋でヤギと言えば、バフォメットなのだけど。

 

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 余談。

 ボックには派生ジャンルも色々とありまして。

 

 まず、冒頭の写真のように、ヴァイツェンボック。

 ミュンヘンのビールなので、単に「ボック」と言えば、ラガーを濃くしたヤツなのだけど、これはヴァイツェン、小麦のビールの濃いヤツ。

 ちなみに、冒頭の写真で、「Heller」(ヘラー)とあるのは、「地獄の」…ではなくて、ドイツ語で「輝く」とか「明るい」とかいう意味。濃いビールを造れば普通は色も濃くなりがちなのに対して、淡色のボック、ということです。暗色は「Dunkel」(ドゥンケル)。

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 ベルギーの「ドゥベル」(dubbel、2倍)や、現代の「ダブルIPA」のように、普通のボックよりさらに濃いヤツを「ドッペルボック」と呼びます。ドッペルゲンガーの「ドッペル」(Doppel、2倍)。
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 なお、ジャンルというよりはボックの作り方で特殊なヤツが1つ。

 アルコール度数を上げる方法として、ウィスキーなどの蒸留酒は、酒を加熱することで水とアルコールの沸点の違いを利用して分離させる訳ですけど、冷やしたときの凝固点も水とアルコールで違う訳です。

 おそらくは冬季の保存中に偶然、凍ってしまった氷を取り除いたのが始まりだと思うのですが、水が先に凍り、アルコールは液体のまま残るので、氷をどんどん捨てていくと、アルコールが濃くなります。

 こうやって濃くした伝統的なビールを「アイスボック」(Eisbock、氷のボック)と呼びます。

 伝統的なヤツは度数を上げると言っても、10%とかなんですが、クラフトビールの世界ではこの方式を応用して、40%超のビールとかも造られています。ウィスキーじゃん? …いや、まあ、蒸留はしてないので…。

*1:ドイツ語は2つの単語を重ねて新しい単語を作りがち

*2:アインベックから来たビールがどうして濃いのかを明示的に説明してる文献は今のところ見たことがないので、あくまで憶測ですが