Beerhouse³ 営業日誌

ものづくりの街、新潟県三条市でビール屋やってます

水割りを人に飲ませるのは違法(の疑い)

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 どうも。新潟県三条市の中心部、「本寺小路」でクラフトビールを中心とした飲食店「Beerhouse³」を、とりあえず何とか営業しております店主いけのです。

 

 海外におけるクラフトビールの発展には、自家醸造の文化があって、ところが、日本では、酒税法で免許を持たずにお酒を造ることが原則、禁止されているんですよね。

 原則、なのでもちろん例外はあるんですけど、ただ、あくまで例外規定なので、たまに、こういうバグを起こします。

 

 自宅に遊びに来た友人にお湯割りを飲ませるのは違法…。

 

 では、詳しく法律を見ていきましょう。

 ※なお、以下は独自解釈なので、法律の厳密な解釈は、税務署か弁護士さんに相談してください*1

 

 公務員なら誰でも知ってる、政府法令検索サイト、e-Govです。ちなみに、いけのが市役所を辞めた後で、サイトがリニューアルされてだいぶ、見やすくなった。

 

酒税法 | e-Gov法令検索

 

酒類の定義及び種類)

第二条 この法律において「酒類」とは、アルコール分一度以上の飲料(略)をいう。

 

酒類の製造免許)
第七条 酒類を製造しようとする者は、政令で定める手続により、(略)その製造場の所在地の所轄税務署長の免許(以下「製造免許」という。)を受けなければならない。(略)

 

第五十四条 (略)製造免許を受けないで、酒類酒母又はもろみを製造した者は、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

 

 で、ここでいう酒づくりってのは、工場で醸造とか蒸留することなんだな、と思うじゃないですか。そりゃ、俺達には関係ねーわ、と。

 ところが、第43条で「みなし製造」として、実は結構、身近な「お酒の操作」も酒造と定義されているんです。

 

第四十三条 酒類に水以外の物品(当該酒類と同一の品目の酒類を除く。)を混和した場合において、混和後のものが酒類であるときは、新たに酒類を製造したものとみなす。(略)

 

 はい。酒に混ぜていいのは、水、もしくは同種類の酒*2だけ。それ以外のものを酒に混ぜてアルコール1%以上だったら、それは酒造だから、アウト。

 しかも、水についても

5 第一項の規定にかかわらず、酒類の製造場以外の場所で酒類と水との混和をしたとき(政令で定める場合を除く。)は、新たに酒類を製造したものとみなす。(略)

 

 製造業者が工場内で水で薄めるのはOKだけど、それ以外は水を混ぜるのもダメ。

 

 ええ、じゃあ、バーやスナックで水割りを出したりカクテルを出すのはどうなんですか。

 

10 前各項の規定は、消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和をする場合で政令で定めるときについては、適用しない。

 

 飲む直前で混ぜる場合は、政令 =「酒税法施行令」に従っていれば、OK。

 では、施行令を見てみましょう。

 

酒税法施行令 | e-Gov法令検索

(みなし製造の規定の適用除外等)
第五十条 13 法第四十三条第十項に規定する消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和をする場合で政令で定めるときは、酒場、料理店その他酒類を専ら自己の営業場において飲用に供することを業とする者がその営業場において消費者の求めに応じ、又は酒類の消費者が自ら消費するため、当該混和をするときとする。

 

  飲食店でお客さんのオーダーが入った後で混ぜるのはOK。

 その次の「又は」の分岐点が中々、専門的でわかりづらいけど、文の切れ目を考えると「政令で定めるときは、」まで遡るんでしょう、個人が自分で飲むために飲む直前に混ぜるのもOK。

 

 問題のツイートの要点は、ここです。

 飲食店がつくるのはOK。自分で飲むためもOK。じゃあ、個人が自分以外の友達に作るのは?

 

 さらに、ここで国税庁の通達。

酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達|国税庁

 

第10項関係

2 「自ら消費するため」の範囲

 令第50条《みなし製造の規定の適用除外等》第13項に規定する「自ら消費するため」には同居の親族が消費するためのものを含むものとし、他人の委託を受けて混和するものは含まないものとする。

(注) 「自ら」には、法人は含まないものであるから留意する。

 

  はい、家族に水割りを飲ませるのはOKだけど*3、他人はアウト。

 しかも、飲み会の参加者は、意思を同一にする「法人」である、とかで逃げれるかと思ったら、法人もダメ。

 

 まあ、家族と他人の間のグレーゾーンの広いところです。

 たとえば、委託を受けずに自発的に混和したけど、気が変わって(多く作りすぎて余ったので)、それを他人に飲ませる場合はどうなんだ、とか。

 

 

 ところで、直前の混和しか認められていないなら、梅酒とかを造り置きするのはどうなんですか、と気づいたあなたは偉い。

 実は酒税法43条にはもう2項あります。

 

11 前各項の規定は、政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合(前項の規定に該当する場合を除く。)については、適用しない。
12 前項の規定の適用を受けた酒類は、販売してはならない。

 

 自分で飲むために酒に酒以外のものを混ぜるのは、施行令に従っていれば、直前じゃなくてもOK。

 ただ、11項と12項に矛盾があって、自分で飲むために混和するのはOKなのに、それを売るな、というのはどういうこと…? 

 12項で販売を禁止しなくても、そもそも11項で他人に飲ませることを禁止しているのでは。

 …と考えると、やはり10項や11項で「自ら消費するため」というのは、自分のために作ったけれど(余った場合等)、他人に譲ることはありうる、と想定しているのでは…?

 

 

 ついでに施行令。個人消費目的の混合酒。

14 法第四十三条第十一項に該当する混和は、次の各号に掲げる事項に該当して行われるものとする。
一 当該混和前の酒類は、アルコール分が二十度以上のもの(酒類の製造場から移出されたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき又は保税地域から引き取られたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき若しくは徴収された、若しくは徴収されるべきものに限る。)であること。
二 酒類と混和をする物品は、糖類、梅その他財務省令で定めるものであること。
三 混和後新たにアルコール分が一度以上の発酵がないものであること。

 

 アルコール20℃以上の酒に梅とかを漬けるのは直前じゃなくても、OK。日本酒とかワインに漬けるのはダメ*4。さらに詳しくは財務省令 = 酒税法施行規則。

酒税法施行規則 | e-Gov法令検索

 

3 令第五十条第十四項第二号に規定する財務省令で定める酒類と混和できるものは、次に掲げる物品以外の物品とする。
一 米、麦、あわ、とうもろこし、こうりやん、きび、ひえ若しくはでん粉又はこれらのこうじ
二 ぶどう(やまぶどうを含む。)
三 アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類のかす

 

 ややこしいけど、ここに掲げる以外のモノは入れてよい。米、麦とかブドウとかは入れちゃダメ。

 多分、他の酒と紛らわしい、ということだと思います。あと比率とか造り方によっては、普通に「そのもの」の酒を造れてしまうから。

 しかし、香料とか、色素も入れちゃダメなんだな。

 

 ついでに、通達で11項についても「自ら消費する」の範囲を指定しています。

 

第11項関係

1 「自ら消費するため」の範囲

 法第43条《みなし製造》第11項に規定する「自ら消費するため」の範囲は、第10項関係の2〈「自ら消費するため」の範囲〉の定めを準用する。

 

 ところで、この11項の梅酒については、逢坂誠二議員が平成19年に国会で質問しています。梅酒を友人間で贈答しあうことは一般に行われているが、規制を受けるのか?

酒税法に関する質問主意書

衆議院議員逢坂誠二君提出酒税法に関する質問に対する答弁書

 

政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合」には、酒類の製造とはみなさないこととしており、この場合には、酒類の製造免許を受ける必要はない。
 また、同条第十二項において、同条第十一項の適用を受けた酒類は、販売してはならないこととしているが、当該酒類を無償で知人等に提供することは、同条第十二項に規定する販売には当たらず、同項の規定に違反するものではないと考えている。

 

 自ら消費するために混和する場合は、製造とはみなさない。

 11項の酒類は販売してはならないが、無償で知人等に提供することは、販売には当たらない。

 

 

 と言うことで、皆さんも、ご自宅等で友人に水割を提供する場合には、あくまでも自分で飲むつもりで造ったけど、余ったので、友人にも振舞う、という小芝居を打っていただくのが安全かと思われます。

 

 

 なお、機械工学科出身で元公務員のいけのとしましては、法律というのも機械と同じく、人間の生活を豊かにするために人間が造った仕組み(システム)であって、人間の生活に不都合がある仕組みについては、仕組みに人間が従うのではなく、人間の生活に合うよう仕組みの方を造り変えていくべき、という考えです。

 

 日本の多くの法律では、個人間のやり取りは規制しないけど、「業として営む場合」には規制されるものがあります。料理を作って食べさせる、家に泊めさせる、とかね。

 この場合、事業開始届の提出いかんにかかわらず、多くの法律では「不特定多数を対象に」、「継続反復的に」、「利益を取って」行った場合に「営業」とみなされます。食品衛生法とかでは、利益の有無は関係ないです*5。継続反復的、というのも複数回やった事実がなくても、意図があれば*6対象になる場合が多いです。

 

 酒税法は自家消費そのものを規制しているので難しいところではありますが、やはり、「消費者が自ら」の消費者を友人間に広げるくらいが落としどころかなあ、と思います。

 ただ、カクテルづくりが得意なヤツが友達500人集めて振る舞うのはどうなんだ、とか、「不特定多数」*7とはどこまでか、みたいな問題もあるとは思いますが。

*1:いけのは元公務員なので普通の人よりは法律を読むのに慣れてるつもりですが、それでも前職でも必要な法解釈は都度、それで合っているか担当省庁に問い合わせをしていました

*2:たとえばビールにビールを足すのはセーフ

*3:あくまで税法なので同居の家族だと財産を共有する、ということ?

*4:10項により直前ならOK

*5:町内会の餅つきとかも字義通り解釈すると規制対象

*6:テストケースとしてやって上手く行ったら次もやろう

*7:これも法律によっては名簿作成等により特定の多数であればセーフのものと、多数だとダメなものとあります